鎮守の杜

悠久ノ風 第3話

第3話 鎮守の杜

 

心は自由だ。
囚われるな。
過去に、人間に。
今この時を生きろ
――久世 零生  帝全の戦にて

下忍くノ一達

「これは……」
「想像以上……だね……」


下忍くノ一達

「この鎮守の杜がここまで犯されるなんて……」

風守神社、鎮守の杜。彼女達はそこにいた。
少女達が歩み出る。法装を纏った少女達だ。葉月と異なり、衣装には
統一性が見られる。風守の歩き巫女。その中の下忍に位置する者達だ。

訓練された彼女達に似つかわしくない感情が浮かんでいた――恐怖である。

訓練を積んできた彼女達でさえ、度重なる魔の襲来に疲弊し、恐怖を覚えていた。
振りまかれた凶の気配は尋常ではない。
本来、神社にいるべき彼女達は神社を空けて法装を身に纏い
この鎮守の杜に集まっていた。
つまりは異常事態。

眼前の現実に彼女達は言葉を失っていた。

「こんな事……いったい誰が……」
彼女達の表情が曇る。この風守神社を守護する結界。それを構成する
基点が壊されていたのだ。

「アゲハ、みんな警戒してくれ……敵が残っているかもしれない」
葉月は下忍達に声をかける

下忍の何人かが、辺りを見回す。

「これはやはり……ガルディゲンの仕業……だろうか」
「ガルディゲン……」
『ガルディゲン』その言葉に早綾の顔から表情が消えた。
その言葉は世界にとって脅威の象徴の一つ。
特に風守にとっては。
「アゲハめも……この魔物は……大陸のものと判断いたします」
「報告はどうする……」
「私達を狙っているのは間違いないでしょう。天代様に報告しないと。ですが、極力大事にはしたくありません」
「大事にしたくないって……それはやっぱり疎開に関する事……でござるか」
早綾がアゲハに尋ねる。

「はい、せっかくオギナ達が疎開に納得してくれたのです……彼らの決断が鈍らせる事は避けたいので」
頷き、彼女達は地に張られた結界を検分していく。明らかな結界の乱れ。

風守全体に張ってある守護の理が崩れている。
それは防衛状態にある彼女達にとって、死活の問題だった。

そして――



下忍くノ一達



「うっ……これは……」

くノ一達が怯えを混じった声を漏らした。

禍々しい爪痕。
粉々に破壊された結界痕だった
おぞましい爪痕が刻まれている。
「魔物……ですね」
――それもかなり強い、と続ける。
魔物。世界法則から逸脱した生物。理法は理力によって形となり超常の法則として力をふるう。
そして理法生物とは理力によって生物として形作られ、超常の生物として力をふるう。
無害なものも存在するが当然人に仇なす者が大多数だ。
別名、理法生物とも呼ばれるが、明確に人間社会に害を及ぼすものは魔物と呼ばれる傾向が強い。
そして近年魔物の襲撃頻度は高まっている、特にこの風守では魔物の出現が頻発していた。それも動物から派生したようなものだけでなく、高純度の危険な魔物も含まれている。
「東京迷宮の魔物も地上に出始めていると聞きますが……それとも異なりますね」
近年の魔物の活性化は尋常なものではない。
それはある国の動きに比例している事も彼女達は
良く知っていた。
「ガルディゲンの……魔物……」
「それも凶級クラスの可能性が高いな」
ガルディゲン。魔族が支配する大国。
その魔物は肉を喰らい骨を砕き、魂を犯す恐怖の象徴。
それが彼女達の目前に迫っている。
魔物はそれぞれの国家、地域に特徴がある。
特にガルディゲンの魔物は魔族の力が強い。
当然、魔物の凶暴性、残虐性は高いのだ。

「神器の封印は大丈夫だろうか……」

ここの結界が壊されているという事は、風守深部にある封印を脅かす可能性もある。
それは彼女達にとってはある意味死よりも恐ろしい事だった。
「疎開するには早すぎるって声もあったが、適切だったか……その……アゲハ達はいかなくていいのか」

「この地を離れて神器の維持も放棄して、ですか?」
アゲハの瞳が葉月を見据える。

「誤解しないでください。私達には私達の役割があるというだけです。
子供や老人達、彼らはこれからの風守を担うという役割を全うしています。
同じ様に私達はここの神器を守るという役割を全うするだけです」
ぎゅっと手を握りしめる。
アゲハの言い方は、迷いがない。
他の下忍くノ一達も同様だった。
(でもアゲハ達も……未来を担う若者じゃないか……)
口にでかかった言葉を葉月は飲み込んだ。下忍衆達はここに残ると決めたのだ。
ギリギリの状況の中で狂わずにいられるには心の支えが必要だ。
決断が心の支えになる事もある。
「そうだな……創世神器の封印はこの地でないといけない……選択肢などなかったな。すまない」
「……いえ……共に頑張りましょう、葉月さん」

「ああ、私達は結界をみてこよう」
「早綾もがんばるでござる~」
場の雰囲気を明るくするように、早綾が大きく手をあげる。
子供特有の明るさ。おそらく早綾も意識してやっているのかもしれない。

「あなた達も……本当に残ってよかったのですか……」
「もちろんですよアゲハ。虚神に殉じる心は、私め達も同じ気持ちでございます」
下忍衆の一人がアゲハに応えを返す。
アゲハと呼ばれた少女と、下忍とのやりとりは、底に緊迫があった。
沸き上がる危機感を抑え、彼女達は哨戒を再開する。

彼女達は風守の守護を担う者。
古来から虚神は正道の戦いだけではなく、裏の戦いにも長けていた。
配下の下忍くノ一達を使い情報を集めさせ、戦術を構築する。
古来の戦国武将にも見られた手法を虚神は得手としていたのである。
彼女達はくノ一の技の後継を担うものであった。
戦後の度重なる弾圧で衰退した。十数年前の事件で主な担い手の大半を失っている。
いわば風前の灯火。だが眼前の光景は更なる危難を告げている。
「……最悪というものは深まっていくものなのですね。」
だが、更に最悪の現実が迫っている。 だが彼女達の使命感は魔物に殺される恐怖よりも
自分達、先人達が守ってきたモノが壊れる恐怖の方が深刻だった。
(せめて、神器だけは守らないと)
「第三結界も乱れはないわ」
諜報や潜入を得手とする彼女達今は風守へ集まり、護りを固めている。
魔物を初めとした外部の侵入者への備えての結界。

「もって数日、だろうか」
「……その分だけ寿命が伸びますよ……この国の誰かの」
「そうだな……それが風守の理念だ」
言葉には前向きさと諦観が入り交じっている。自分達の事は自分達で守らなければならない。それは彼女達自身よくわかっている。

政府や公権力が宛にならない事を彼女達は身に染みてよくわかっていた
(宛にならない、ですめばいいのですが……)
頼れる者がいない状況で想うのは彼女達が祀る神だった。

「虚神様が守ってくれればいいんですけど……」

(駄目ですね……)
アゲハは自分を戒めた。神を頼ってはいけない。
自分達のやる事は虚神が遺した神器を守る事なのだ。

(大丈夫、大丈夫)

自分に言い聞かせ、不安を消すようアゲハが心がける。

「っ――」
彼女達によぎったのは死のイメージだった。
今まで死んだ人間達、今までの事件。虐殺された風守の人間達。
「うぅ――」
アゲハの脳裏によぎる鮮明な死のビジョンが姿が頭によぎった。
空白する意識。
カタカタカタ。
音がするような錯覚。
気づけばアゲハの体が震えていた。

「アゲハ?」
アゲハの様子に気づいた葉月が声をかける。

「あっいえ、大丈夫です」
「アゲハ、結界を張り直さないと」
下忍くノ一の一人が、アゲハを促した。
彼女達の役目は、ここで風守の守護結界を少しでも補完する事にある。

「そ、そうですね。結界を張り直しましょう」

いかに先行きが暗くともやるべき事をやらねば明日もままならない。
アゲハは手から理法石をとりだす。

「あっ……」
アゲハの手から理法石がすべり落ちた。

「も、申し訳ありませぬ」
でた声は自分でも以外なほど上ずっている。魔物の恐怖の光景が脳裏に浮かんだ

アゲハは知らず腕が震えていた。

(だめ、止まって)
震えを抑えるように
ぎゅっと手を握る。
だが震えは止まってくれない。
恐怖を抑え平静を装ってもやはり恐怖はわいてくる。ジリジリと迫りくる凶の気配はアゲハ達の心を着実に蝕んでいた。
戦争神経症のソレに近い。典型的な戦争疾患と異なり、ヒステリーという形で出ないのはアゲハの気質ゆえだが、逆にいえば内に溜め込んでいるという事だ。
「アゲハ……」
他の下忍達もその事情は察していた。
なぜなら彼女達全員が症状の大小はあれど、アゲハのような
戦争神経症に近いものをわずらっていたから。
彼女達の自制により大きく表面化してないが、彼女達も大なり小なりそれを抱えている。
だからアゲハの状態が理解できたし、直接それに触れるのはよくない事と感じていた。

「アゲハめが、またドジをしてしまいましたね」
声がいつもと違う。頭から声がでてるようだ。
声の出し方を忘れてしまいそうな感覚。下手をすれば歩き方を忘れてしまいそうで。
手の震えを必死で抑える。
冷静さを保とうと、心に訴える。
そうふるまわないと決壊しそうだった

「――どうか風の導きを」
それは風守蒼生禄の一節。
ふと、手に広がる暖かい感触にアゲハは気づいた。

「葉月……さん?」
気がつけば葉月がアゲハの手を握っていた。
「大丈夫、大丈夫だ」
葉月は目をつぶり、とんとんと手に額をあてる。
心から仲間を気遣う優しい表情だった。

「無理をするなアゲハ。つらいのはアゲハだけじゃない」
優しく言い聞かせるように葉月はいった
「葉月さん」
「みんな……みんな不安なんだ……私も……私達は強くない……」
私も、という葉月の言葉には重い響きがある。葉月もまた、死を待つに等しい状況に重い不安を感じていたのだ。

「だからみんなで支え合っていこう……アゲハも不安になったら私にいってくれ
「そうでござるーーー葉月ちゃんはなんでも聞いてくれるお姉さんでござる」
早綾は葉月を信頼しているようだった。
「支える、ですか」
「私も昔な……支えてもらった人がいるんだ。さっきやった事も、その人にやってもらったんだ」
「その話は……」
「その人は弱くて……どうしようもないほど危うくて……変な人で……でも
どうしようもなく普通だった」
「葉月ちゃん?」
葉月の言っている事は少し不可解だった。人物像か想像ができない
「変だろ? 私も変だと思う。だけどな、そう感じてしまったのだから仕方がない」
葉月は苦笑する。自分でも困っている、そんな顔だった。

「その人は変わった人でな……弱いのに……決して強くなんかないのに……日本人を守ろうとしていた……」
葉月の回顧は優しく、そして儚げだった。

「私達が今やっている事も……その人がやろうとした事と同じだって思うんだ」
「同じ事……ですか?」

「弱くても……追い詰められてても……私達はこの国を……日本人を守るために
頑張っているんだ……私達は強くないが支えになってやる事はできる……それはアゲハも、風守下忍衆も同じだろう」

「……はい」
「私もだ。支えてやりたい……日本人を……もちろんアゲハもだ」

「だから、私達は自信をもっていい……もっていんだ。大丈夫、大丈夫だ」
葉月は真っ直ぐにアゲハを見る。葉月の腕もかすかに震えている。
当然だった。葉月は春咲のように強くはない。葉月もまた芯から強いわけではないのを
知っていた。今のは自分に言い聞かせる
言葉でもあったのかもしれない。
「私を助けてくれた人の言葉のおかげで私はこうして言葉をかけていられる。
だから支え合おう」
だが、勇気を振り絞り、仲間を勇気づける
葉月をアゲハは素直に凄いと思った。同時に支えたいとも。

「葉月……さん」

じっとアゲハの瞳を見る葉月。アゲハもその瞳を見返し、柔らかく微笑みを
返した。
「大丈夫ですよ葉月さん。子どもではないのですから。
早綾のような子供がいるのに、私が震えてるなんて……ありませぬ……」
声の震えは残っている。だが明らかな震えはなくなった。

「そ、そうか。す、すまない。余計な世話だったか」
葉月は目をぱちくりさせ、握った手をゆるめようとするが
「いえあの……その…………」
緩めようとする葉月の手を アゲハはしっかりと握り返した。

「アゲハ……」
アゲハの手の感触を葉月もまた、感じていた。
その強い感覚に葉月も嬉しさがこみ上げてくる。

少女達が手を握り合う。
アゲハは少しバツが悪そうに目を背けた後、葉月を見た。

「ありがとう、ございます」

アゲハは微笑みを返す。
その微笑みの中には幾ばくかの安堵の心がかいまみえた。
「アゲハ、別に、大人だからって我慢しなきゃいけないきまりなんてないんだからな」
屈託無く葉月は笑った。葉月自身自分が強い人間でない自覚があった。だから
こういう言葉をかけられるのは自分が適任だと思ったのだ。

「それにしても……葉月さんを元気づけた方……変わったお方なのですね……」
「確かに……変な人……だったな……」
「ふふ、アゲハめも会ってみたいものです」
「あぁ……そうだな……うん……」
複雑な表情で葉月は語る。
自分の傷に触れるような痛みを伴った顔だ。

「その方は葉月さんにとってどういう方だったのですか……」
「えっ?」
一瞬、葉月の表情が止まった。
「?」
アゲハにとっては普通の質問をしただけだったが、葉月の反応は奇妙なものだった。
「私にとって……どんな人……?」
「葉月ちゃん」
一瞬、早綾が心配げに葉月に声をかけた。その意味がわからず、アゲハは一瞬戸惑った。
葉月は独白するように口を開けた。
「そうだ……彼は……優しくて……いい人で……うん……それで……」
葉月は言葉を続ける。

「私は恩を返さなくてはいけなくて……でも怖くて……思い出しくなくて……それで…………」

チリチリチリ。空間がかすかに軋んだ。
「葉月さん?」

葉月の手が冷たくなっていた。目の焦点が合っていない。
かすかに揺れる空気。かすかに体が重くなった気がする。理法が漏れている。
「はづっ――」
アゲハが声をもう一度かけようとした時

「さーーーすが葉月お姉ちゃんでござるーーーーーーーー」
刎ねるように早綾が葉月達にだきついた。

「わっわっ、早綾何をする」

「アゲハちゃんを励ましてしましました~やっぱり葉月ちゃんは、優しいお姉さんでござる~~さすがでござる~~みんなの頼れるお姉さーーん」
「私の言葉じゃない。さっきもいっただろう、教えてもらった事だ」

一瞬見せた葉月の不可解な様子は霧散していた。

「大丈夫でござるよみんな。葉月ちゃんもいったでしょ? だって私達には風の守りがあるんだから」

楽観的にすぎる子供の言葉。だが、そんな言葉でも早綾の明るさは暗い状況の中いくばくかの救いにもなった。

「そ、その通りだ。い、いい事いうなぁ早綾……っで、でも、触ってるところが変だぞ」
「わーやっぱり葉月ちゃん、おっぱいおっきいでござるね!!」
「だ、だからやめないか早綾、こら変なところを触るんじゃない」
「だってだって葉月ちゃんのおっぱいおっきくて柔らかいんだもーーん
私も早くそれ位になりたいでござる~」

「早綾は十ーーー分育ってる。安心しろ。ここのくノ一達が飲んでる豊豆を飲んでいるんだから将来も安泰だ!!だからそんなにくっつかなくとも大丈夫だぞぉっ!」
「よいではござらんかよいではござらんか~~」
葉月は一杯一杯だった。
早綾が葉月にじゃれつく。
葉月も無理矢理ほどくわけにもいかづ四苦八苦しているようだった。
くすりと、他の下忍達も笑みを浮かべている。
一回り年少というのもあって早綾の信仰の真っ直ぐさは、現実の辛酸を知るアゲハ達下忍衆にとって少し眩しくうつる
それが内心に疼きにも似た痛みを覚える事もあるが、今は早綾の真っ直ぐさを暖かく感じた。

「早綾さん?」

「はいなのですぅ~」

「子供達はアゲハめが守ります。なにかあれば早綾さんは後衛にいるのですよ。前線はアゲハめにお任せを」
「了解でござる~アゲハちゃんは頼りになるでござる~」
「ふふ、風守の下忍衆は皆を支える壁となるのが役割であり誇りなのです。そうですよね、皆様」
アゲハは下忍くノ一達に向き直る。彼女達もアゲハを気遣っていた。
周りを警戒して、異常がないか確認してくれていた。
彼女達がいるからこそ、葉月も安心してアゲハに語りかけてくれていたのだ。

「その通りございます、早綾」
「私め達に任せてよね」
「お姉さん達、まだまだいけるわよ」
「私達には神様の加護があるのですから」
今まで彼女達を見守っていた下忍くノ一達も次々と決意を口にする。張り詰め曇っていた彼女達下忍衆の表情も幾分か柔らかくなっていた。
「――どうか風の導きを」

「みんな仲良しでござる~~」
「あぁ、とにかくみんなで力を合わせて――」
葉月がそう言いかけた時だった――

「えっ……」

視界の端が歪んだ気がした。

体が疼くような違和感。
アゲハは咄嗟に空を見上げる。
空に一瞬何かが映った気がした。
「どうしましたか、葉月」
「今、空が……」
次の言葉を紡ぐ事を葉月が躊躇する。唇が微かに震えている事を葉月は自覚した。
「空が…震えた気がして……!?」
「「空が……震える……」
「まさか、空震……」
その言葉にくノ一達が唖然とする。
空震と呼ばれる現象。
真暦における災厄の予兆と呼ばれるものだった。
「そんなはずは…… うっ!?」

「うあぁ……!!」
くノ一達が地に膝をつき、うめく。

瞬間、くノ一達の体を駆け巡る毒々しい暴威。
衝撃が彼女達を襲った。

「くっ……かはっ……!?」
周りのくノ一達も次々と膝をつく。
体中を駆け巡る痛み。

「うっ……」

血液が逆流するような感覚。
「うあぁ……」
呻き声が漏れる。

締め付けられるような圧迫感。

気をつけて、凶念が彼女達に発せられていた。

アゲハと葉月、下忍達は思わず呻く。
「げっげぇっ!」
「ぐえぇっ!」

体が潰れるような感覚。何人かの下忍が呻き声をあげ血混じりの吐瀉物をまき散らした。このままだと全員が失神する。
「まず……い」

その時――空が歪んだ。
(あ゛れ……は)
(……黒)
漆黒の波動が空を駆けた。

今自分達を苛んでいるものとは別種のものだという事はわかる。
漆黒の波動。それは人間の本能的な恐怖を想起させた。総身に怖気がはしる。
しかし――

葉月は一瞬だが空に黒い風をみたきがした。
――轟

轟音と共に、空が震えた。
「なっ……」
「うっ!!」
「なにがっ」

だが圧力攻撃は中断された。一瞬空に見えた黒いなにか、それを見ただけで総身に
怖気がはしった。駄目だと終わった。しかしもたされた結果は真逆で事態は不明不可解。

「ッはぁっ!?」
気が巡り発する。体内に侵入する異物感を払拭するように活をいれた。
圧力に意識が明滅する意識。彼女達、退魔の訓練を積んでいない者なら、それだけで気失する様な凶暴な力だ。
ダメージを負っている状態で今のを受ければそうなる可能性も高い。

いったいなにが? わからない。しかし考える暇もなく

「うっ――」

――ドクンと、心臓が締め付けられるような感覚。
それは純粋でおぞましいほどの――殺気。
「迎撃体勢をぉぉぉ!」
興奮状態。半狂乱でくノ一達は叫ぶ。
そうさせたのは、恐怖と防衛本能、そして毒々しい殺気だった
彼女達は感知した。間違えるはずもない。
「まさか魔物が!?」

「はいっ……近くにいます!?」



アゲハ

――魔物の気配。

葉月とアゲハが得物を引き抜く。
短刀には理光の煌めき。
他の下忍達も続くように得物を引き抜いた。

「……」



「……」

「……」

くノ一達は集中して魔物の気配を思索する。

凍るように静まる空気。しかしそれが――



おぞましい凶念を帯びる。

下忍くノ一

「みんな、散開をぉぉ――」
葉月が叫びかけたその時―――

下忍くノ一
「えっ――」

極彩色のナニカガキタ。
――ズチュりと不快な音が響き

下忍くノ一

「ごぼっ……あ゛!!…」
一人のくノ一のが抉られ。

下忍くノ一

「あ゛あ゛ああぁぁぁぁぁぁぁーーーーー」
下忍くノ一の絶叫が鎮守の杜に鳴り響く。ソレは容赦なく、一人のくノ一を引き裂いた。

「なっ――!」
襲来した暴力。
近くにいたノ一が言葉を失うが――

下忍くノ一


「はぐぅっ……」
肉を抉る耳障りな異音
近くのくノ一も脇腹が貫かれていた。

中距離からの攻撃。
伸びた魔物の魔腕がくノ一を戦闘不能に陥れた。

「ぐうぅぅ……」

うめき声のようなものをあげ二人の下忍くノ一の全身から力が抜ける。
「みんなぁぁ!!」
悲痛な早綾の叫びが木霊する。あまりにも果断に

「くっ……」
葉月とアゲハが硬直する。
訓練を積んだ彼女達でも殆ど攻撃が知覚できなかった。
しかし確かに感じる凶の気配――

「あそこからだ!!」
葉月が叫ぶ。
攻撃を逃れたくノ一達は仲間達は敵手の姿を認めた。
魔腕の方角に蠢く存在。
「ひっ……」

最年少の早綾から恐怖の声が漏れる。

くノ一達の視線の先には異形の魔物。


「GGGGGGGGG」

惨劇の幕が上がろうとしていた。