1話 蒼生大和
――人に終焉を
――神に永遠を
――人の理が終わる
――神の理が始まる
~終焉と永遠 序~
「――」
草薙悠弥。
「……ここは」
目覚める。
瞬間、草薙の激戦の記憶が駆け抜けた。
神風によって数多の敵を討滅した草薙悠弥。
だが代償は大きかった。
力を使い果たした。無力。
その上での絶対者達への宣戦布告。
絶対の死、その帰結しかありえない状況だった。
だが草薙悠弥は生きている。
この場所で。
「……体が」
神理。
自分中にあるものを全て使い果たした。
その感覚があった。
只の日本人。
「……記憶が」
欠落している。
記憶にも欠落がある事を。
「――只の日本人、か」
その言葉を反芻する。
今の自分こそがもしかして――
(いや……)
思索を打ち切る。
それ以上に考えなければいけない事があった。
「ここは……」
草薙悠弥がいる場所。
――蒼生の地。
周囲には、澄んだ景色が広がっている。
蒼い空。
蒼い海。
透き通る様な――果ての地。
「まさかここは……」
知っている。
覚えている。
「……蒼生の地」
永遠に終わった筈の場所。
「……俺の」
草薙悠弥の故郷ともいうべき場所だった。
(そうか……)
草薙は頷いた。
(やはり……起動したか)
その時だった。
(……!)
水の音が聞こえた。
清だ水。
そして……
(誰かいる)
草薙の隣には――少女がいた。
「<命>……」
運命の少女。
(俺を……)
神風を発動し全ての力を使い果たした草薙悠弥。
それを……
(治したのか)
草薙を治したのが<命>。
マナ・リアリス。
少女の身体に浮かぶマナの残光が、癒しの神理の発動を雄弁に物語る。
<命>は草薙悠弥の命を治癒したのだ。
そしてそれだけ力を使った反動が大きい事も、草薙は理解した。
(体、治ってるな)
(癒しの神理で……俺を……)
草薙悠弥は思う。
<命>が命がけで自分を助けたのだと。
癒しの神理を限界まで使った。
燃え尽きるはずだった命を、<命>の祈りが繋ぎ止めた。
只、その事実があった。
(……)
草薙は彼女の頭に手を置く。
涼やかな風が吹いた
◆
まずは状況を把握する必要がある。
懐かしい匂いがした。
風守と似ている。
だが違う。
(むしろこれは……)
――風守の原形となった場所。
知っている。覚えている。
草薙は<命>を抱き上げた。
姫君のように優しく。
「…………」
草薙は無言で蒼の地を探索する。
◆
蒼の地を歩く。
(なんとかなった、か)
あの超決戦を生き残った。
この日本が滅びてない事だけは理解できた。
この蒼の地が機能しているという事はそういう事。
(……どうなった……)
蒼の神撃――神風。
百万の国敵の討滅。
神風はそれを果たした。
だが……それで全て終わったわけでは断じてない。
むしろ――
(……始まりだ)
――この神風が開戦の号砲となる。
絶大な力を持つ魔大国、ガルディゲン。
圧倒的な神威を誇る神聖国、リュシオン。
(やっと「戦いになる」というレベルだろうな……)
草薙悠弥は知っている。
ガルディゲンの絶大な力を。
リュシオンの圧倒的な力を。
草薙悠弥が創世神器を破壊した。
彼らが日本に攻め込む理由を消失させるというのは――
(……もう通じない、か)
自覚する。
この日本は、ガルディゲン、リュシオンが支配するこの真暦の特異点。『神異』なのだ。
既に彼らは日本を滅ぼすという事を何年も前から決めている。
(……戦争か)
握った拳に血が滲む。
圧倒的な戦力差。
いや、戦力差と呼ぶにもおこがましい絶対的な隔絶。
それでも戦うと決めた。
「だったら――」
その時――
「……様」
「!?」
草薙は腕の中に眠る少女を見た。
「悠弥様……」
<命>はうわごとのように自分の名を呼び続けている。
(ここがもし……あの場所なら)
彼女を癒す場所がある。
草薙は知っていた。
「ここは……蒼生大和か」
皆が集まる場所。
虚神の元に集まった者がいた。
かつて訪れた日本の大きな危機から日本を守るために。
かつて現れた日本の強大な国敵を倒すために。
数多の星が集った場所。
「――蒼生大和」
草薙悠弥が――ここに集いし者達の主が。
――虚神は帰還した。