神風が吹いた。
吹きすさぶ蒼の嵐。
万魔軍が討滅された。
蒼の神風。
捨身断命。
襲い来る百万の魔軍を神風で討滅した。
草薙悠弥――の神風によって
奈落の空が震撼する。
草薙悠弥の捨て身の神風が日本を救ったのだ。
百万の魔を一身に引き寄せ、神風で討滅するという恐るべき戦い。
戦略というには無謀。
戦術というには無法。
成したのは国敵討滅。
為したのは蒼生守護。
奇跡の光景を全国が見ていた。
「おっ!」
「あっ!」
絶望が砕け散る瞬間を。
自分達の死の運命が討滅された瞬間を
自分達の命が守られた瞬間を。
そして――その大業が一人の日本人によっ為された瞬間を。
「「おおおおおおおぉぉぉ!!」」
歓声が波濤となって沸き立つ。
全国が沸き立つ。
それは原始的な衝動。
生物的な喚起だった。
自分の命が助かった。
母の命が助かった。
父の命が助かった。
友の命が助かった。
恋人の命が助かった。
救いの神風に日本全てが震撼したのだ。
――人が。
――魔が。
――神が。
中心に立つ者――虚神を見ていた。
「……救世主だ」
誰ともなく呟いた。
百万の魔軍を滅ぼし、一億の蒼生を救った。
「蒼生」
「……蒼生!」
徐々に声が大きくなる。
自分の命を助けられた男が叫んだ。
自分の命を助けられた女が叫んだ。
娘を喰われそうになった女が叫んだ。
「神風……」
「ご先祖様……これが救国の風」
「神風というわけですか」
絶望的な戦力差、大陸からの侵略者を薙ぎ払った救国の風。
「歴史の真」
神風。
北条時継は空を見た。
見据えるのは蒼生。
只の日本人――草薙悠弥。
◆
称揚が力になる。
――神風
「蒼生!」
「蒼生!」
「蒼生!」
称揚する。
伝播する。
徐々に……徐々に大きくなる声。
大きくなる声は巨大なうねりとなり国を震撼する。
草薙悠弥は絶望を救った。
口だけではない。
捨身断命。
弱体化し、プライドを捨て
緩やかに死す事しか出来ない
圧倒的な称揚。
万魔を薙ぎ、万民を救った神風が絶望と暴力に晒された日本人を奮い立たせたのだ。
使命に突き動かされたというわけではない。
それは原始的な衝動。
――生きたい。
自分達が生きたいから
死にたくないから。
救世主にすがる。
「それもまた良し!」
草薙悠弥は肯定する。
みっともなくても格好悪くても
日本人の想いを肯定するのだ。
「行くぞ国民!
日本を守るために!
立ち上がれ!」
「蒼生!」
「蒼生!」
「蒼生!」
「蒼生!」
理解した。
屈服は死。
恭順は死。
無抵抗は死。
無抵抗、力のない非戦は食い物にされるだけ。
只の事実。真理というにはあまりにも単純な理。
その事実をこの国の人間は正しく理解する。
「蒼生!蒼生!蒼生!蒼生!」
大称揚が地を震撼させる。
その声は全国に轟き渡った。
◆
「主……様」
虚衆。
風守のくノ一は一部始終を見ていた。
国敵を討滅したあの姿。
「草薙様は……いえ……」
「私め達の真の……主」
統べる者。
この風守が奉じた虚神。
虚神の器は巨大。
三千世界を超越する器である事を女達は本能的に理解した。
風守の全てに刻まれる。
草薙悠弥こそ、この日本の救世主。
絶対的な忠誠を誓うべき――神である事を。
「虚神!」
「虚神!」
「虚神!」
「虚神!」
「虚神!」
詠唱のように響く。
魂にまで刻まれる――真の主。
◆
数多の想いが集う。
嵐の中心に立つのは神風――草薙悠弥。
蒼生!
蒼生!
蒼生!
蒼生!
始まる。
響く称揚。
新たなる日本の時代の到来が来る。
新たな戦いの幕が開ける。