第1話 国敵討滅
――国敵討滅
瞬間――蒼生守護の風が駆けた。
蒼風が魔物を薙ぎ払う。
弾け飛び散る魔の血。
蒼い風は少女達を襲いし絶命の一撃を絶ち切った。
「あっ……」
「えっ……」
「うぅっ……」
「あん… た……」
「うそだろ……おいっつ……」
風が吹く。
魔物に倒され蹂躙された者達を守るように蒼の風が湧出していく。
唸り狂う蒼風が嵐となり魔物を一斉に薙ぎ払ったのだ。
「GUGAAAAAAAA!!」
響く断末の大音声。蒼風が魔の総身を滅裂させ、魔物が大量の血をぶちまけ倒れ伏す。
国民を犯す凶気は払われ、国民を殺す凶手は絶たれた。
「GGGGG」
生き残りの魔物が怒声をあげる。
魔物は同族の死にも動じる事無く、其れに向けて烈しい殺意を向けていた。
大量の魔物達の爛々と輝く殺気は彼の者を打ち殺すという赫怒の念を一斉に向ける。
殺気と腐臭をまき散らすその姿は吐き気を催すほどにおぞまじい。
魔物がこの神社にもたらした災禍は筆舌に尽くしがたいものだった。
破壊された神の社。抉れ粉々にされ汚された神域。
地にはこの社を守るために抵抗した者達が転がっている。
この地の守護任務を忠実に守り、健気にも戦った者達は容赦なくやられ地に倒れ伏していた。
此処に希望は無くて絶望に満ちていて。
だからこそ、其の風の存在は異質だった。
国民を守りし蒼の風。
蒼生守護の風は魔物を倒し、命を絶たれようとしていた人間達を守るようだった。
「あぁっ……」
少女は風の主を見上げる。虐げられ弾圧されても尚、この国の為に祈りを捧げ続けた者達。
彼女達を犯していた絶望と恐怖はもうない。
彼女達の心を犯していた絶望を彼の者の風が払っていったかのようだった。
――この日本を守るために立っている。
国敵討滅――その言葉だけで其の存在が理解できた。
目の前の存在は自分達を守る者ではない。
これは日本を守る存在なのだ。
「GYYYYYYYYYY」
魔物の呻きは、其れに対して魔物は激烈な敵意を向ける。
風の神撃により多くの魔物が倒されたが、未だ魔物の数は膨大。
神社を囲む殺気と穢れは膨張し、いまや魔境と化しつつあった。
風がうなりを増す。
魔物の激烈な敵意を受けて尚其れは国敵たる魔物への殺意を高め続けていく。
その精神性は公に尽くす聖人の類では有り得ない。むしろその逆、これは徹底した個だ。
何が誰がどう思おうと風のように囚われず己を貫く。それは蒼生守護を行う者として矛盾した在り方だった。
しかし理解できる事はある。
彼女達を蹂躙し、神域で非道の限りを尽くした魔物に対抗出来るのはこの無道の存在だという事を。
「虚……」
彼女達は思い出す。
日本人を守る風の存在を
――蒼生守護の伝説を
人々の心に恐怖が絶える事はない。
無論、不安に打ち勝つ方法も、恐怖を克服する方法もないわけではない。。
しかし、心に恐怖や不安は次々と沸いてきて、恐怖は繰り返されていく。
自分なりに恐怖や不安と向き合っても時間が経てば同じ不安がくるというのはどんな日本人でも経験があるだろう。
特にこの神社の者達は大戦後に強い弾圧を受けてきており、数多くの脅威にさらされてきた。
絶え間ない恐怖と不安。心の疲弊。そんな彼女達の不安を風のように霧散させてくれるモノがあった。
其れは日本人の明確な恐怖も、形のない不安も鬱々しい心を吹き飛ばす風の伝説。
そして国敵を討滅する神。
――虚神
日本の国難において日本を守るために戦った蒼生守護の神理者。
風の神理を以て恐るべし力を持った魔族、元軍と戦った日本人。
「神風」」と呼ばれた虚神の風は数々の国敵を討滅し日本を守った。
彼女達は迫害を受けながらも祈りを忘れなかった。
遠い昔、日本を絶望から救った虚神が、日本人である自分達を助けてくれると。
どんなに怖い事があっても、どんな絶望が襲ってきても――
――神風が
昔、日本を救った神の風がきっと
「――俺の国民に手を出すな」
日本の民を守るだろう、と。
「神…様……」
少女は絶望の中、希望の言葉を紡ぐ。
守るべき国民を背に魔と対峙し、無道を持って国民を守り国敵を討つ。
その姿は彼女達が信じた神の姿だった。
「いいや」
返ったのは否定。
虚神は言う。
――只の日本人だ