災厄の感知

悠久ノ風第25話のサブエピソード

第25話エクストラ 災厄の感知

――風守神社、法神殿。

水下忍

 

「うっ……」
「あぁっ!?」

女達が喘ぐような声をあげた。
法神殿で神器を守る風守の守護者達。

彼女達の肉体にはしった衝撃。
感応があった。

「あっ…うっ……」

強い魔物の気配。

刺し殺す様な殺気。
その圧に感応した守護者の女達の心胆が凍りつく。

「これは……」

感じる。
迫る凶の気配を。

水下忍

「うぁっ……あっ」

守護者の一人は喘いだ。

玉の様な肌から汗が垂れ落ちる。
叩きつけるような凶の気配。
ガルディゲンの魔物。

その気配を彼女達は知っている。

そしてその中でも凶悪な部類にカテゴライズされているもの。

「まさか……」

ゴクリと、守護者の一人は息を飲んだ。
(苦しい)

腹をだき抱え体を折る。

「災厄の……魔獣」

その内の一体が入り込んでいる。

災厄の魔獣。
それはガルディゲンの中でも凶悪な魔物。

多くが久世零生や神理者に倒されたが
ガルディゲンの支配下に組み込まれたものもいる。

あのケグネスやサジン・オールギスと比較できるものではないが、彼女達に対応できるレベルの敵で事には変わりない。

「該当する者は……」
「……これは」

風守のくノ一の得意分野の一つは諜報である。襲撃者の魔力パターンと事前に保有している。

心臓が早鐘をうつ。

災厄の魔獸の一体。凶悪な個体だ。
人間以上の知能、人間の言語はもちろん理力をも扱う。
(……短期間に強力な者が集まりすぎている……
やはり……)

戦争が始まっている。
そして自分達にも……

「……ッ!?」

両膝をきつく合わせた。

恐怖に体が反応するように膝が震えていた。

(駄目ですね、これでは)

自分達は日本を守る風守の者なのだ。
恐怖を抑えようと努めた。

「……私めがいきます」

「一人では無理です、私めも一緒に」

「まるで二人なら……なんとかなるというようですね?」

「……」

「……申し訳ありません、気を遣ってくれたというのに」

「構いませんわ。正直、私めも……同じ事を思ってしまいましたので」

守護者が、自嘲するように微笑んだ。

「……戦力を集めてる時間はありません」

「少しでも時間を稼がないと」

恐怖でこわばっていた。
見つけないといけない。
風守全体の生存の方法を。
だが遭遇は自身の死を意味する。

(震えては……駄目)

女は震える体を抑えた。
もう一人もまた震えていた。

(怖い…)

それは外敵の来寇に怯える民の心地だった。

覚悟を決めるのは一瞬――ではなかった。

ケグネスとの戦い、サジン・オールギスとの戦い。
いずれも彼女達は命を拾った。
命を救ったのは二つには共通点があった。

――神ノ風。

命を拾った。それだけではない。
感じたのだ。

日本を守る無道の守護者――虚神を
草薙悠弥が来た時。

自分達が奉じるシンにふれた気がしたのだ。

だから今、死ぬのを恐ろしく感じた。

逡巡があった。
それは当然でもあった。
災厄の魔獣、その内の一体。

今の自分達が勝てる相手ではない。
魂まで食い殺されかねない。
だが

――えっ

次の瞬間、信じられない事がおこった。

――風を感じる。

そして災厄の魔獣の気配が
嵐に吹かれたように揺れはじめた。
まるで風が彼の魔物を薙ぎらうというように。

水下忍

「あっ……んっ!?」

感応するように彼女達の肉体がざわつく。

――風が――吹いていた。

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