守護者達との戦い

悠久ノ風 第30話

30話 守護者達との戦い

「――創世神器を破壊する」

草薙悠弥の言葉が神域に響いた。

「――ッツ」
「なっっ……」
「なにを……」

風守の守護者達の総身に戦慄がはしる。

――創世神器を破壊する

その単語の意味する所にカチカチと歯がなる。
神の如く力をもった創世神器の破壊。

取り返しのつかない事態を引き起こすだろう。
くノ一達はあまりの言葉に、絶句していた。

「どうして……」

風守の女達は混乱していた。
昼間、草薙悠弥からは確かな誠心を感じていた。
草薙悠弥は傷つきながらも戦い、彼女達を助けた。
そして草薙悠弥への風守神社へ深い理解を示していた。
日本を守るために戦った先人への尊崇を語り
風守の理に深い理解を示していた。
ともすれば、彼女達以上に。

だが目の前の男は違う。
(姿が……虚ろっている)

風守の守護者の一人はそう感じた。

「――なぜ逃げなかった?」

草薙は言葉を継ぐ。

「なぜ今になって風守に残っている?」

「私、達は……」

くノ一達、風守の守護者達の反駁は弱々しい。
反駁するのは簡単なはずだった。怒りのまま叫べばいい。
だがこの男には抗いがたい何かがあった。
まるで――

「――虚神」

虚神――風守が祀る蒼生守護の神。

「民の祈りに応えし救国の風。そんな神などいない」

玲瓏な草薙の響き。

「お前達が苦しんでいる時、虚神は助けにきてくれたか? 」

草薙が問う。

彼女達は答えられない。

「――あの屑に何を期待している?」

風守が祀る神への畏敬の一切を切り捨てる――侮蔑の言葉。

「やああぁぁぁぁ!!」

その時、葉月が弾かれたように草薙に向かっていった。

草薙に助けられた彼女は、怒りの中に悲壮さがある。
聞いていられない、その感情が葉月の双眸に宿っていた。

「――はああぁっ!!」

疾る一撃。理光が明滅するクナイは理力が編まれている。
予想以上の速度、それを草薙はスウェーバックで交わす。
側面にそれた一撃から僅かに異質な衝撃がはしる。

「はああぁぁっ」
側方から刃が伸びる。
葉月とほぼ同時に走り出した影があった。

草薙が回避。
そして――

「はっっ!!」
風守の守護者がくる。

(これはっ)
草薙にはしる違和感。今の葉月の攻撃から
発生する理力の波濤に癖があった。

「ハァ」
葉月のハイキック。流線の煌めが草薙の眼前に迫る。
感情が昂ぶっているのか乱雑なフォームながらも
スピードがある。

回避も防御もせず草薙は一歩を踏み出した。
蹴りの打点は足先である、草薙は前に出る事で打点をずらした。
痛みが側頭部に走るが、草薙は葉月の蹴り足、太ももを掴む。

「ふあぁっ」

葉月の声が漏れた。

「――ハァ」

その時、葉月の体重が反転するように翻った

慣性を無視した動き。理力を練り身体能力を向上させている事を勘案しても
いまの動きは違和感があった。

「やあぁぁぁ」
葉月から少し遅れてとびかかる影があった、髪を結った下忍くノ一。

上体を横にそらしくノ一の一撃を交わした。

「うっ」
くノ一の引きつった顔がわずかに空く。
「――」
草薙は顔ではなく、別の箇所に一撃をみまった。
「かはっ……」
顔ではなく、腹に一撃を受け、くノ一は跪く。
ぐうぅ……という呻き声と共に前のめりに
結い髪のくノ一が倒れ伏す。

「やああああっ!!」

仲間がやられても、まだまだくノ一達の数は多い。
くノ一達が草薙に殺到する。

それに続き間髪入れず、髪を短い波に編んだくノ一が襲いかかってくる。
妖艶な笑みが浮かぶ、だがその奥に潜む確かな敵意。

「はっ」

肉付のよい太ももがたわみ、肢体が飛び上がる。
にくつきのいい足が開き弧を描く。
草薙は迎撃を試みるが側面から来た、くノ一の攻撃に阻まれる。

「ふふっッ」

乱戦の中、下忍くノ一はクスリと笑い、飛び上がり足を開いた。
天落挟み。
敵を挟み、絡み組む技だ。
足や体に組み付く事で相手の動きを封じる。彼女達のような魅艶の外見ならば感覚を酩酊させる付加効果も可能だ。

「っつ!!」
草薙はこの技は危険だ。

組み付かれればその隙に即座に無防備に他のくノ一の攻撃を受けるだろう
それは彼女達の集団戦術において非常に覿面な効果を発揮する事は明らかだった。
草薙は回避を優先。天落挟みを交わす。

「はぁッ!」
だがそれによって隙ができた。
その勢いで他のくノ一達も追撃を仕掛けてくる。
組み付きにかかってくる。
組み付きにかかるくノ一を仕留めようにもこれではラチがあかない。
組み付こうとしたくノ一はクナイを持ち替える――その隙を草薙は見逃さなかった。
ジャブのように最小限の動作で――殺気がこもったフェイントの一撃が伸びる。

「!?」

草薙の殺気を感じとったくノ一。
反射的に攻撃を繰り出すが、戸惑った分攻撃が鈍い。
フェイントに乗ってしまった。相手の放つ気を鋭敏に感じるように、訓練された感覚が彼女達の仇となった。
草薙はその一撃を交わす。同時に隙が出来たくノ一に本本命の一撃が放たれた

「!?おっ…」

拳打を打ち込まれたくノ一の腹腔に衝撃。ビクビクと震えるくノ一の痙攣が拳ごしに伝わる。
「お見事……」
がくりとくノ一が倒れ伏す。

「ハァ!!」

くノ一が複数一気にとびかかってくる。
電光石火の技で、一人のくノ一を追加で仕留めた草薙だったが、多勢に無勢。
集団が一人を攻めるには絶好の位置、彼女達はこれを狙っていた。
組みつきを回避させたころで彼女達は草薙の移動位置を誘導したのだ。

統一された衣装から窺い知れるように、彼女達くノ一は自身を集団の中の部品としてみている。

役割を果たすために躊躇もためらいもなく突っ込んでくる。
あのサジン・オールギスを倒した草薙の実力は
彼女達一人一人を上回っていると理解していた。

「はああぁぁぁぁーーーーーー」

だからこその集団戦術。
一気呵成に四方からくノ一達が攻め込んでくる。

「――」

草薙は一人のくノ一への方向に勢い良くかけた。

一人の攻撃をそらす。攻撃は体を掠めるにとどまった
くの一の驚愕の表情が停止する。
そして――

「くあぁっ……」

くノ一の豊かな胸部に中心に拳が真っ直ぐ吸い込まれる。
衝撃。女の体がくの字に折れ曲がった。

そのまま手を離さずささった胸部の肉をわしづかみ
くノ一と自分の体の位置を入れ替えた。

「くっ!」

攻撃を繰り出そうとしていたくノ一達の焦りの吐息が漏れる。

その迷いは瞬刹に草薙は、自身の地に向かうように体を投げ出すようにして攻撃を回避。
手を地に着く。腕に力を入れ体勢を反転。
そのまま腕の力でくノ一と距離をとる。

絶好のチャンスであった一斉攻撃をかわされ、くの一は布陣を整える。
勢いのまま駆けてくるかと思ったが、さすがにこの辺りは油断ならない。

「ハッ……ハッ……」

くノ一達の息遣いが静かな空間に響く。

「ハッ…ハッ……」
「ハッ…ハァッ……」

風守に伝わる呼吸法。
はじめはくノ一達の間でバラバラだった、ハッハッという呼吸が徐々に合わさっていく。
そして――

「ハァッ!!」

くノ一達が一斉に法撃を放った。

草薙に着弾した。はしる衝撃。

同時にくノ一が駆けだしていた。
反応が草薙が一撃を繰り出す。
「ぐぅっ」
という呻き声と共に一人が倒れるが

「ヤアアァァッ」
その上を飛び越え一人のくノ一が飛翔する。
草薙の頭に、くノ一の足が絡みつく。
塞がれる視界。肉突きの良い太ももで首をギリギリと絞められる。
足は腕の数倍の筋力がある。ここまで嵌った以上簡単にはふりほどけなかった。
「くっ……」

力で劣る彼女達の有効な攻撃である事は間違いない。
女の攻撃として十分に嵌るものだった。
――別の意味でも
草薙の感覚が酩酊する。

鼻孔に入る甘い感覚が神経を酩酊させる。
彼女達くノ一が標準を超えるスタイルの由来と目的、その効果を草薙は実感した。

「今よ!!」

必死な声が後ろに向かって放たれる。
通常なら挟み込んだ相手の背に武器を突き立てるのだが、この草薙相手では難しい。
だが十分。

くノ一 一人が組み付く事で草薙の動きを一時的にほぼ止める事が出来る。

「はぁっ――」
そして果断に他のくノ一達が動いた。

――ガチリッ
クナイが草薙の足裏にあたる。

「えっ――」
思わぬ形で攻撃を止められたくノ一の声が漏れる。
草薙が蹴りの勢いで足を前に出した。

(ビンゴ)

半ばあてずっぽうだったが、ある程度の確信はあった。
彼女達が絶好の好機を得た事で、彼女達の放つ殺気はより明敏になっていた。

「なっ――」

クナイを支点に草薙が飛翔。
反動を上乗せした飛び上がりは、かなりの距離だった。
一斉に襲い掛かってきたくノ一の攻撃範囲から逃れた。

「中々素晴らしかった」

「っっ!!」

「相手が俺じゃなかったら殆どのやつらは倒せていただろう。それにいい経験をさせてもらった」

「うっ!」
草薙が急降下。
草薙の攻めに下忍くノ一は反応できない。

「ぐうううぅぅ!!」
着地と同時に膝がくの一の背に直撃する。

「か…かはっ……」

衝撃に弓なりに上下した後、
カクりとくノ一の首が落ちた。

「うっ……」

くノ一達が後ずさる。

「なっ――」

草薙はバックステップを反転させ、組み付きの牽制を図っていたくノ一にとびかかった

「なにっ」

一瞬、側面で援護をしていたくノ一をはじき飛ばす。
面食らったくノ一の意識に空白が生まれた。
「奥ゆかしい性格だが」
その間隙を縫うように一撃を突き入れる。

「くぅっあ!」
体がくノ字に仰け反り、その隙に逆に草薙はこちらから組み付いた。
しかし、彼女達のような足で組み付く技ではない――サバ折。
ベアハッグだ

「なっ!?」

「誘いを断るほど無粋でもない」

反撃を試みるが、手負い故即座に反撃に移れない。
くノ一の肉体を抱いたまま、体勢を入れ替える。

「!!」

くノ一達にとっては仲間の体が目の前にきた格好である。

攻撃目標が仲間に強制的にすり替えられた形が一気に襲い掛かる
くノ一達の動きが止まる。

草薙は一瞬の停止を見せたくノ一の正面に蹴りを放つ。

「ふぁぐっ」

前蹴りの格好でくの一が吹き飛ぶ。草薙はその反動をフルに活用し、一人を抱えながら飛び上がるように距離をとった。

抱え締め上げていたくノ一から唾液が落ちる。蠢く気配。
組み付いたくノ一得物を引き抜き背に突き立てようとするが草薙のベアハッグに
反撃ができない。

「ああぁぁぁぁぁ」
ベアハッグを喰らったくノ一が叫び声をあげる。
くノ一武器が振り上げられた武器が止まる。
一気に仕留める為、くノ一の体を締め上げる。法兵達を昏倒させた草薙の膂力によるサバ折りの圧力がくノ一達にかかる。

「!!」

その声に弾かれるように、くノ一が再動する、が遅い。

「あっ!?」

腕の中のくノ一がカクリとうなだれる。同時に草薙は前方に視線を移動。
まとめてかかってくるくノ一は焦り故か歩調や呼吸にわずかな乱れ。
その乱れが一番大きなくノ一へ向かって、腕の中で失神したくノ一を投げた。

「くっ」

くノ一は攻撃を取り止め、仲間を受け止めた。
陣形が崩れると同時に草薙は動き出している。

追撃してきたくノ一の中には先ほど前蹴りで手負いのくノ一もいる。
歩調に乱れが見えた。

そこを突こうとした時――

「はぁっ!」

葉月がとびあがる。
天落としだ。

草薙の眼前に葉月の足がせまる。

草薙が葉月の足に絡め取られた。

「んあぁっ!!」

打ち込み一閃、拳が葉月の体に深々と刺さっていた。

「うぁっ……」
葉月が倒れた。

「はああぁぁっ!!」

髪を結ったポニーテールのくノ一が続いて攻撃をしかけてきた。
距離をとり隙を伺っていたが、葉月が倒れるのを見て駆けるように
接近してくる。

「やあぁぁぁぁぁ!!」

ポニーテールのくノ一は葉月のような癖はないが動きに無駄がない。得物の短刀で素早い攻撃を繰り出し、気を練った理法を飛ばす。

「行くわよ!」
回避していると、ウェーブの髪をしたくノ一が隙をぬうようにが躍りかかってくる。

「ヤァっ!ヤァァッ」

うねる四肢、躍動する豊満な肢体
けりとつきを交互に繰り出してくる。

「ハァッ」

理法の衝撃波がうねるようにおそいくる。
回避行動をとった後、他のくの一が追撃をしかけてくる
数人同時に襲い掛かってくる。くノ一達とはくんずほぐれつの乱戦になっているが
同士討ちする気配はない。
草薙が押し始めると他のくノ一がフォローに入る。
自身が危うくなっても仲間の助けに入る局面も何度か見受けられた。

それは仲間想いという甘いものだけでなく、なにより戦略的な意味が
含まれるだろう。

彼女達は個々の戦闘能力は高くないが、集団の戦術を得手とする。
集団戦術の効果が自分自身の生存率を通常部隊のそれより大きく左右するのだ。
仲間の死亡や欠員は自身の生存率の低下に繋がる故、彼女達の連携と協力が
途切れる事がない。彼女達の人海戦術といっていいだろう。

(……)

確認するように草薙はくの一と体を交えていく。
その戦理の根底にはこの風守が奉じる「絆」がある。
「――――」
この風守のくノ一の戦い方は大きくかけ離れていた――草薙自身の戦理と。

(安心した)

見聞はもういい――

スイッチを入れるように、草薙は動き出す。

「!!」

一息に射程内に入られ、くノ一の顔が驚愕に歪む。

「ふっ」

含み針だ。
厚めの艶がかったポニーテールのくノ一の唇に鈍い銀が煌く。
結った髪をなびかせた豊艶なくノ一に一抹混じる淫妖の笑み。
笑みを形作った唇から含み針の一撃が放たれる、が
「!!」

結い髪のくノ一から漏れる驚愕の気息。
見開かれた瞳が近づく。
接近し一撃を繰り出そうとしたときに

「危ないっ!」

もう一人のくノ一が助けようと割って入る。
――嵌った

とっさの判断、反射の行動ゆえもう一人のくノ一は隙をさらしていた
そして、結い髪のくノ一への攻撃が自分に向いている事に彼女は
気づきもしない。

「!!」

一撃が割って入ったくノ一に直撃。声をあげる事もできずくノ一が
昏倒する。草薙が倒れたくノ一に追撃をかけるようなモーションを見せた。

「お、おのれええぇぇ」

結い髪のくノ一が勢飛び上がる。。
勢いをつけ突進する事で、倒れた仲間から引き離そうとするためだろう。

自分をかばい倒れた仲間を最優先に考えた戦術だった。
しかし――ここで勝負は決まった。
追撃をかけようとしたのは、草薙の誘いだった。
焦ったくノ一の
「!ウゥッツ!!」

草薙の拳が豊満な胸の下に深々と突き刺さる
(――仕留めた)
手に突き刺さった胸元から震え伝わる確かな感触。
「…かっ……かはっ……」
胸元に突き刺さった腕を凝視し、二、三度胸元を痙攣した後
「あ……」
結い髪のくノ一の首がガクリと下がった。

豊満な肢体は猟師に仕留められたウサギのようにぐったりとうな垂れ
大きな乳が力なく揺れる。

だらりと下がった四肢に一切の力が宿らなくなった事を確認し、草薙は
くノ一の胸元から手を引き抜いた。

「……」

最後まで確認せず次の目標を向き直ると同時に
ドサリと結い髪のくノ一が倒れ伏す。

「くっ」

くノ一の動きが停止し、ゴクリと息を飲む音が聞こえた。
力が抜け、仕留められプラプラと揺れる仲間の姿を凝視している。

彼は割って入ったくノ一を追撃するつもりはなかった。
それぞれが、各くノ一の行動をおこさせる呼び水だった。
それぞれの攻撃のタイミングと標的を誤認させた、彼の勝利だった。

そしてわかった事がある。

連携の技量、そして含み針の攻撃など彼女達の下忍としての
技量は確かなものだ。集団戦術等自分たちの役割、その理も解している。

仲間を想った行動、そして卑怯な戦術に憤りを見せた心の動き。
彼女達の影ばたらきの者としては優しく、人として真っ直ぐた。
相手が紅蘭のくノ一ならこうはいかなかっただろう。

だが彼女達がもっていたものは、稀有なバランスで成り立っているのかもしれない。
その在り方は――

「甘いな……」

拳を引き抜き、草薙は周りのくノ一に言い放った。
失神しているくノ一倒れ呻く彼女達を冷たく見下ろしている。

戦いが続いていった。

「一ついっておこう…………」

草薙は紡ぐ。

「――虚神は屑だ」

草薙は断言する。
底なしの闇のようだった。

「うっ……」

「うあああぁぁぁっ!!」

残りのくノ一達が草薙に向かって駆ける。

戦いが続いていく。