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悠久ノ風 第19話

第19話 


「武士道大原理が一つ――国ニ害為ス者是斬ルベシ」
暗殺者を一刀両断した侍。
武士道大原理、侍が紡ぐその言葉には全てを貫くような『圧』があった。

表れた侍の戦気にこの場にいる誰もが言葉を失う。
草薙悠弥を除いては。

「正真の刃……武宮……京士郎」

草薙が言った侍の名は神社に響いた。
そして草薙は一瞬で暗殺者を両断した刀に目をやった。

「……正宗」

草薙が侍の刀を見る。
それが刀の名だった。

元との戦いから受け継がれた刀。
日本の敵を斬るために作られた国家を守護する刀だった。

「去ね」

武宮京士郎の圧が宿った声が響く。
刃の様な鋭い鬼気に周囲は圧倒された。
反駁もない、圧力に押されて何も言う事ができない。

暗殺者を両断した凄絶な斬撃。

だが本質はそこではない。
暗殺者を一瞬で両断した斬撃は草薙にも殺到した。
草薙が避けなければ草薙も斬られていただろう。

「相変わらずガチでやばい奴だな……」
草薙の率直な感想だった。
草薙は知っている。ある意味で誰よりも。
武宮京士郎、彼はとにかく「斬り捨てる」のだ。

「武士道大原理が一つ――倫理道徳ヲ守ルベシ」
武士道大原理、この『大』は武士道を超越せんとした
武宮独自の思想である。

「――つまり――草薙悠弥は斬っていいという事だ」

そして解釈もぶっとんでいた。

「すっげぇ宇宙的解釈だな、オラびっくりしちまったぞ!」
「宇宙の中心は日本だ。それ位の気概で挑むが丁度良い」

「相変わらず武士道のを拡大解釈し己の理にしているようだな」
「異端にして正道――それが武士道大原理だ」
武宮がいう。一寸の迷いもなく真っ直ぐに――
「俺が武士道だ。俺が正道だ」

武宮が断じた。武士道大原理。当然ながらそれは「葉隠」など準じた
所轄正式な「武士道」とは似て非なるものだ。
だが
「――それもまた良し」
草薙は武宮の在り方を認めていた。

「コイツラ……」

「やばい、ですぜ」
草薙悠弥と武宮京士郎。
彼らの空気、彼らの会話。
人としてどれも逸脱している。
そして双方逸脱の事実をくそほどにも思っていない。

「貴様、なにさ――」
法兵が詰め寄り、武宮の肩を押さえようとする。
そこまでだった。法兵の言葉が――とぎれる。

「えっ」
とぎれる、断裂される。言葉と他にもう一つ。
地面に引かれる赤い線。
気づけばなくなっていた。
「あ゛……」
法兵の欠落部分。
武宮をつかんでいたはずの――右手が落ちていた。

「あっあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーーーーー」
事実の知覚と同時に法兵の絶叫が響く。
「あがっ、あがあああぁぁぁ」
地に膝をつき一瞬で失われた腕を見て絶叫する。

「なんだ……ありゃぁ」

「うそ……」

黒服の男も、葉月達神社の人間も目の前で起こった事が
信じられない。武宮が何かをして法兵を斬ったというのは理解できる。
だがその攻撃が見えなかった。
「何をした……のでござるか」
早綾も何が起こったか全く理解ができてない。周りの兵も同様だ。

武宮が何をしたかすら理解できない。
兵が斬られたというシンプルな事実だけが転がっていた。

「斬理――序の刀」
ただ草薙だけが、武宮の攻撃を知覚するに至った。
完全に沈黙した法兵達に一瞥すらくれず武宮は歩を進めた。

武宮京士郎は恐怖の感情を一身に浴びても一向に意に介する様子はない。
絶叫の声も聞こえない、恐怖の視線も届かない。兵や風守の守護者達がいだく恐怖も一向に意に介さない。
それら只の風景としてとらえている。まるで武宮京士郎の世界にそんなものは存在しないかのように。

「草薙悠弥」
武宮京士郎、彼がここに来てから見ているものは只一つ。
草薙悠弥、一人だけだった。
「こいつぁ……想像以上……だなぁ」
黒服の男は理解する。
まるで人型の刃。触れるとあの刀は全てを斬り捨てるだろう。
今の武宮の動きで、リュシオン兵も正宗の隔絶した力を理解してしまった。
彼らは理解している、強大な神理者には逆らえないと。
絶大な力を持つ神理者が存在する超大国リュシオン。
そこに属する彼らは実体験として理解していた。

そして締めの風が吹いた。
ゼザアアアア
草薙が暗殺者を倒す。
突風のように吹き飛んだ暗殺者の一人の体が黒服の横をかけぬける。
頬についた血に目線をやる。
そして草薙は言った。

「伝えろ。これが答えだ」
只、シンプルにそれだけ草薙は言った。

「……徹底抗戦って奴かい」
黒服は頬の血をなめ取った。

「……伝えておきやいてやるぜ」
黒服の男は帽子を目深にかぶった。
手元から水晶のようなものを取り出した。その時
――カッ
水晶が強い光りを放つ。

瞬間、サジン達の体に淡い光沢を帯びた。

「転移…法定」

水晶の光りには強大な理法が編み込まれていた。

(この理法具……まさか……)

これほどの規模の転移とは桁外れの業物だろう。
そして発せられる規模の

「俺達の仕事はコイツラの回収でねぇ……深追いすると火傷しちまうさぁ」

黒服の男は草薙を見た。

「あんたの信念本気だなぁ……一つ伝言があるぜぇ」

黒服の男が草薙を見た。
そして黒服の男は笑った。

「――終わりが始まる」
その言葉は、風守に静かに響く。
「あの方からの伝言だ」

その言葉と同時に魔石から極光が放たれた。
眩い光りが放たれた。
黒服の男達が、リュシオン兵が光りに包まれる。
倒れたサジン・オールギスやシグーの体も光りが覆った。
そして真っ白にホワイトアウトした次の瞬間、リュシオンの人間の姿は跡形もなく消えていた。

…………リュシオン

武宮がリュシオンが消えた所を見ていた。
武宮もまたリュシオンとはただならぬ因縁がある。
草薙と武宮はほぼ同時に互いを見た。

――終わりが始まる。
あのメッセンジャーが残した言葉。
その意味を草薙悠弥と武宮京士郎は解していた。

「草薙」

武宮が真っ直ぐに草薙を見た。

「貴様は風がおこせるか」

安心しろ――

貴様を斬るのが本番だ。

瞬間、武宮の刃がはしる。
明確な殺意を以て放たれた超高速の斬撃墜
草薙に向かって放たれた
「もちろん、貴様を斬るためだ。草薙悠弥」

「なっ」
ラムやタマノは草薙に斬武宮の凶行に絶句する。

「…………」
草薙は黙っていた。
草薙はこの武宮京士郎の極端な思想を知っている。
そして、黒服のメッセンジャーを思い出す。
――終わりが始まる。
その言葉の重大な意味も知っている。ならば武宮のこの行動も――

「それもまた良し」

草薙は応えた。

「武士道大原理が一つ――信を以て斬るべし」
武士道大原理を唱えると同時に武宮の周囲に気が満ちた。

「見極めてやる草薙悠弥。今の貴様があの神ノ風を起こすに足るかを……満ちなければ」誓言を唱える。
資格なくば――

「――斬る」