戦争準備

悠久ノ風 第20話

20話 戦争準備


「それもまた良し」

草薙悠弥が構える。

「武士道大原理が一つ――斬ルベシ」
武宮京士郎が構える。

双方必殺の構え。

「相変わらずマイペースだな、お前」
「貴様ほどではない」

草薙悠弥と武宮京士郎。
自身の成した所業に対して一片の迷いが無い、という点で彼らは共通していた。

「絶対的な『個』の愛国者、存在自体に矛盾を抱えた者ほどはな」
「心のまま生きてるだけだ」
草薙と武宮間で交わされる会話。そしてその空気。
それは長年共に時を駆けた友のようであり、長年争ってきた不倶戴天の敵のようであった。

「風のように自由だからな」
草薙の言葉に迷いはない。
互いが近づく、一歩ごとに空気が圧迫されるような感覚。
武宮が下げた刀が一層強い理力が迸しる。

「…………」

「…………」

空気が張り詰める。
沈黙が支配する。
しかし――

「明証――」

武宮の言が静謐を切り裂いた。
瞬刹、武宮を中心とした世界が歪んだ。
刀で構築された刃世界が刹那明滅したのを草薙は知覚した。
一息の間に世界が凝縮され圧倒的な理力が正宗に集約。
そして――

「正宗――」

瞬間、武宮の神理が煌めいた。

 

――ザン

刃が奔る。
空間ごと斬り捨てるような凄絶な斬撃。
刹那、武宮の斬撃に草薙の頬が切り裂かれる。

「――」
瞬間の太刀。
掠めただけで死に触れたような感覚。
これが武宮京士郎の太刀。
死に触れた瞬間、草薙の頭が刹那切り替わる。

「――撃つ」
刹那草薙の神理が風を纏う。
草薙が武宮にクロスカウンターを撃ち込んでいた。
刀を相手にクロスカウンターをぶちかます無法の極み。草薙悠弥。
それを為したのは草薙に渦巻く風だった。

「――」
瞬間武宮が目を見開く。
草薙の一撃を武宮は受けとめた。

飛び散る血、響く打撃音。

「――」
「――」

衝撃に双方が距離をとる。

 

「…………」
「…………」

拳と剣、交差した一撃一刀。
互いの拳と剣を実感するように二人が静謐を保つ。

再び双方が――動いた。

瞬間詰められる間合い。
刃圏に入りし刹那武宮の一撃が斬り放たれた。
コンマゼロ秒で空を斬る絶技を草薙が回避。

「おおおおおぉぉぉ!!」

草薙が踏み込み、草薙が武宮に一撃を放った。

「はああぁぁぁぁ!」

武宮の覇気が迸った。
武宮の凄絶な闘気が大気を歪め草薙の拳が武宮の頭蓋を掠めた。
意識を揺らすほどの衝撃、だが戦鬼の面貌を浮かべた武宮が一撃を繰り出す。

(――斬られる)

厳然たる事実が頭を駆けめぐる。
だがその因果を断ちきる風があった。
――ズォ

「!」

草薙の風が武宮の太刀筋を歪めた。
その風の歪みが正宗の勢いを相殺する。

一瞬の遅滞の隙をぬい草薙が斬撃を回避。

野獣の反応を以て草薙は白刃の前に踏み出す。
首筋を掠め血が出るが――回避。

草薙が見せた超反応。
武宮はまゆ一つ動かさず次の斬撃を繰り出す。

拳と剣が交差する。

草薙の拳が武宮に一撃を打ち込んだ。

草薙が疾り武宮が疾る。
乱れ交差する攻防は精緻な式を描くような美しさがあった。

二つの戦鬼が交わり闘う。
斬る、撃つ、斬る。
撃つ、斬る、撃つ。

乱れ交錯する攻防は原始的な暴力と闘争でしかない。

「こいつら……」
ラムは草薙と武宮の戦い戦慄する。
多くの修羅場をくぐってきたラムでさえ、彼らの戦いの凄絶さに絶句する。

「草薙……」

「el――」
「旅人はん……」
「草薙さん……」
風守の守護者はも草薙と武宮の戦いを止められなかった。
男と男の戦い。
介入できないと、本能的に解悟する。

「草薙……」

葉月は草薙を見る。

草薙悠弥と武宮京士郎。
この二人の闘争は利害を超えて理外の法で廻っている。

「――シアァァ!!」
草薙が動いた。
返す刀で武宮が一撃を――放つ。
――ザシュウ

剣が草薙を掠めた。
草薙が前進。

一撃を振りかざす。

――ズドォ
拳が武宮をかすめた。

血が飛散する。

「なんて……戦い」

草薙と武宮の戦いに、風守の守護者達が戦慄する。

草薙悠弥と武宮京士郎。

この二人の闘争は利害を反し理外を是とした闘争だ。
そして勝負が決しようとしていた。

「――この一刀にて理を示す」

瞬間武宮から凄絶な殺気が迸った。
ここにいる全員の息が一瞬止まるほどの圧倒的な『圧』
ただ草薙悠弥だけが真正面からそれを受け止めた。
神理が集束する。

只一刃。

決戦の刃が放たれる。

「――正真一刃」

――界を斬る。
瞬間、凄絶な一刃が解き放たれた。
空間ごと斬り捨てるような凄絶な斬撃。
速度という概念ではおいつかないほどの超常の抜刀。
凄絶な斬撃が繰り出された。
音速を超え神速に至る刃が草薙に殺到。
世界を切り裂く神速の刃。

――ザン

「なっ!!」
「あっ!!」
風守のくノ一達が衝撃の光景に絶句する。
目に映ったのは正宗に斬られた草薙の姿。

草薙の体が両断された――ように見えた。
草薙の姿が虚う。
だが血が出ていない。斬られた草薙の姿は霞のように消えた。
(――残像)
武宮は知覚する。斬ったのは草薙の風の残像だった。

「お、おおおぉぉぉ」

草薙が疾走。

反応速度、胆力共に並ではない。

「ぶっ倒す」

「こい」
だが武宮はこの草薙の絶技にも予想対応していた。

双方が――駆ける。
防御も何もない。

それは明日無き無法者のケンカにも
生死を超越した武の衝突にも見えた。

「――撃つ」
「――斬る」

双方攻撃を繰り出す。

光る一撃。
響く撃音。
草薙の拳が打ち抜かれ、武宮の刀が振り下ろされた。

交差し、疾る一撃、

「――」
「――」

拳が頭蓋に止まる
刃が心臓に止まる

致命の一撃が交差し双方の急所寸前でその動きを止めていた。

 

…………

時間が停止したかのような一幕。
武宮は眉一つ動かさず眼前の――草薙の拳をみていた。
そして――

――トン

風に何かが落ちる。

草薙の拳が、風が武宮の胸元にあった何かをおとさせたのだ。
草薙の拳が、風が武宮の胸元にあったあるものを落とさせる。

一つの光る玉のような何か

それが草薙の手に入っていく。

それが草薙の手に入っていく。

だがこれは草薙悠弥にとって大事なものだった。

これからの●●に――必要なモノ

「……お前もわかっているみたいだな」」
草薙は静かに呟き、武宮京士郎を見据えた。

斬るような鋭利な瞳。

何かを見極めるように草薙をみつめる瞳。

(刀で出来ている…か)
よぎる再想、この男は刀で出来ている。昔に感じた印象と変わらず。
そこに在った。

「草薙悠弥……まだこの日本の為に戦う程度の力はあるようだな

「力の無い貴様が自身の計画を為そうというのなら……それはこの国を
食らう可能性があった……最低限――最低限の力はあるようだな」

視線を草薙から外さない。
「正宗は国を脅かす存在を斬る刀だ。それを忘れるな、草薙悠弥」

「……変わらねぇなお前。『斬り捨てる』事においてはお前は最前をいっている」

「貴様も、戦闘準備はしてきたようだな」

「別に、戦闘準備なんてしていない」

そう、これは戦闘準備ではない。

風の中、草薙は淡々と言う。

「――戦争準備だ」