只の日本人

悠久ノ風 第15話

第15話 只の日本人

「――国敵討滅」

草薙とサジンが対峙する。

草薙の前に立つ男、サジン・オールギス。
死闘の末、バルモワ、シグー、テグムゾの執行者三人を倒した草薙悠弥。
残ったのはグロバシオ規世隊隊長この男だけだった。

「――お前は俺の国民を傷つけた」

それ以上に理由はいらない。
「――ならば倒す」

罰を下す。天が下さずとも、法が下さずとも知った事ではない。
草薙の言葉には絶対の確信があった。
だがそれは傲岸なサジンとは別質の自信だった。

己の国民を守る――
他者の介入を許さぬ不文律の理。
それが、風のように形がつかめぬ草薙悠弥という男の真芯のようだった。

「草薙さん……」

風守の守護者達はそんな草薙の姿を見ていた。
今この時代にそんな事をいう人が現れるなんて思っていなかった。
見捨てられ虐げられた自分達を守るために、ここまで身を捨てて戦う人間がいるなど考えなかった
だが――

「裁きの時間だ……」

殺気に満ちた声が空気を変質させる。
サジン・オールギスが力を集束させる。
サジンの全身から火薬と血が混じったような不穏な気配があふれ出した。
草薙の風のような存在感とは真逆の重々しい気迫が空間を圧迫する。

「あれは……」
サジンに渦巻く巨大な力の波動に風守の守護者達は戦慄する。
肌を焼くようなプレッシャー。

剛蔵との戦いで最後に見せた異質な力がその全貌をあらわそうとしていた。

「あれが……サジンの本気どすか……」
サジンの力にタマノは息を飲んだ。
その理力はバルモワ、シグー、テグムゾを上回っている。

「吠えるなよ――Fランクウゥ!!」

サジンが疾る。
炎が爆ぜサジンが消失。
銃弾が弾かれたかのような爆発的な速度で、
サジンが一気に草薙へと肉薄する。

「!?あの速度は」

サジンの異質な速度にエリミナは目を見開いた。
一息で草薙に迫るサジンがその力を発動する。

「――死ね」
爆音を上げ、サジンの右腕から烈火の一撃が放たれた。

――ガヅォ

大砲の衝撃力を伴った一撃が檄音をあげ草薙を吹き飛ばす。

「草薙!!」

人の域を超えたサジンの圧倒的な出力。
シグー達をも上回る理力波動に葉月達は戦慄する。

「あのサジンって野郎、半端じゃねぇぞ……」

サジンと戦った剛蔵だからわかる。

あれは通常の体捌きや運動ではありえない。

サジンは爆炎の理を身に宿している。
そして、サジンは、爆炎理法の爆発力を自身の体に応用しているのだ。
その技術をもって銃砲の如き動きを実現していた。

血液爆発により発生する瞬発力。
それは溜や体勢に左右されずに爆発的な速度で攻撃してくる。

その絶技を実現しているのはサジンの恐ろしいほどの理法制御力。
人間の条理を超えた爆発的な攻撃力とスピードに加え、爆炎理法を縦横無尽に繰り出してくるサジン・オールギス。

爆炎が草薙を襲う。
爆拳が草薙の骨を軋ませる。
駆動する鋼鉄の肉体。
明滅する破壊の理光。
圧倒的な力が草薙を蹂躙する。
肉を砕き、空間を焼く神理の力。
その力はもはや人間兵器というのも生易しい。

「どうした!?」
草薙の腹が打たれ地が砕かれる。
「どうした!!」
草薙の胸が穿たれ空が震える。

「どうしたあぁぁぁ!!」

サジンが猛り爆音が響く。
放たれる爆撃の拳。
血液爆発による圧倒的速度で繰り出される攻撃が草薙をとらえた。
銃砲と同質の仕組みは条理を超えた攻撃を実現する。
サジンの爆炎の制御力がないと自壊をおこすであろう絶技だ。
弾丸のような拳が飛び交い爆炎が荒々しく草薙をなぶっていく。

爆発によって生じるエネルギーを力に変えて草薙を穿つ。

死の爆炎が草薙を覆う。

サジンの波状攻撃はさながら殲滅爆撃
一撃一撃が重く、人体を破壊していく。

「ちぃ!?」

草薙はサジンの攻撃の防御に専心する。
骨を砕くような衝撃が草薙の体を蹂躙していく。

「どうしたぁFランク!!」

サジンは勝利を確信していた。
この力を開放した自分に勝てる者などこの風守にいるはずがないのだ

「勝てると思ったか? 逆転があると思ったか?」

防戦一方となった草薙をサジンは見下ろした。

「弱者が強者に勝てると、そんな馬鹿げた夢を見ていたか」

サジンが激しい一撃を草薙に見舞う。

「身の程を知れ――日本人」

サジンが怒濤の攻撃を繰り出す、
血液爆発による圧倒的な拳速。
銃砲と同質の仕組みは条理を超えた攻撃を実現する。
サジンの爆炎の制御力がないと自壊をおこすであろう絶技だ。
弾丸を凌駕する拳が飛び交い、吠え猛る爆炎が荒々しく草薙をなぶっていく。

「貴様ら敗者はいつもそうだ。
負けたと。
認められないと。
己の力不足を棚にあげ惨めに吠えるのだ。
既にどうにもならない己の人生を――敗北を認められずに」

サジンの攻撃が草薙に突き刺さる。

「己の惨めさを直視せよ。
世界の理には逆らえない。
貴様ら敗者がいかに正義を叫んだとてそれは通じない。
それが世界の理だ。
独自の思想?
一人で戦う?
馬鹿が、そういう愚か者が世界の理を乱すのだ!!」

言葉を紡ぐ度サジンの神理が勢いを増していく。
神理は「心理」でもある。
自身の心を語る言葉は、自身の神理を強化する効果を有するのだ。
サジンの激しい一撃が草薙の胸に突き刺さる。

「滅べ、リュシオンの正義の前に」

サジンの爆炎の神理が凶暴な光を帯び煌めいた。

サジンの爆撃の拳が草薙を穿った。
弾丸を超えた速度の拳が草薙を打っていく。

「合わせろ! 世界に。
適合せよ! 思想を。
世界に、社会に平伏するのだ。
敗北者の正義など何の意味もなさない」

サジンが語るのは勝者の理であり、敗北者へ投げかける言葉だった。

爆発し投下されるサジンの神理。
爆発的な速度で草薙を穿ち、連射砲の如く繰り出される拳撃が草薙を打ち据えていく。
サジンの言葉が続くと共に、一撃が草薙を狙う。
しかしその瞬間――

「――それで?」
瞬間、うなりをあげ猛威を振るっていたサジンの拳が静止した。

「――お前の言う世界とやらが俺に何か関係あるか?」

――草薙悠弥がサジン・オールギスの攻撃を止めていた。

「なっ!? 貴様ッ…………!?」
サジンが絶句する。暴走炉の如く猛りふるっていた体がピクリとも動かない。
鳴り響いていた爆音が嘘のように止んでいた。
速射砲の様なサジンの拳を、草薙の手が止めていた。

「!!」

草薙とサジンの目があった。

「国敵討滅――」

その理の前に世界の正義など無意味だと草薙の瞳は告げていた。
一息に草薙がサジンに踏み込む。

瞬間、風が炎を薙ぎ払った。

――ドゴオオォ
骨を穿つ轟音。

撃ち放たれた草薙の一撃がサジンの体の中心を撃っていた。

「ぐおっ!?……おおおおぉぉぉ」

サジンを激しいボディーブローが襲う。
前のめりに崩れ落ちそうになる。

「ああぁぁぁらああぁぁ!!」
草薙がサジンの顔面側頭部に風をまとった拳を打ち込んだ。

衝撃にサジンの体勢が大きく傾く。
反撃が不可能な無防備な状態。草薙が更なる追撃をかけようと踏み込むが

「なめ――るな」

しかしサジンは烈火の如き気迫を瞳に宿らせた。

「なめるなよFランクゥゥーーーーーーー」

瞬間、サジンが爆発的な速度で打ち返した。
一瞬で加速し最高速度で放たれる爆発の拳。
その拳が草薙に突き刺さった。
草薙の総身に衝撃がはしる。
しかし――

「おおおぉぉ!!」

だが草薙は怯むことなく、攻撃を撃ち放った。
草薙の風の拳。
サジンの爆炎の拳。

双方の顔面のそばを拳が駆けていく。
草薙はサジンの攻撃を紙一重で交わしていた。

空気を圧壊させ迫る爆撃の拳。
当たれば只ではすまないであろう。
すまないはずなのに――

(倒す――)

草薙が狙うは特攻じみたクロスカウンター。
風を纏い、サジンの爆弾じみた攻撃圏に疾走する。
「なにぃ!!」

圧倒的な攻撃力を持つサジンを前に正気の沙汰とは思えない。
絶大な攻撃力を持つ捨身の攻撃を――

(――)
草薙が疾走。
サジンの弾幕のような攻撃に飛び込んだ。
爆発的な速渡で襲い来るサジンの拳が頬を掠める。
摩擦に血が灼ける匂いが意識を覚醒させる。
そこで草薙は――

(見えた)
先鋭化された意識でサジンを正視する。
サジンの攻撃の軌道を――見切った。

「くらえぇぇ!!」
再び放たれるサジンの攻撃。
草薙は一切構わず――拳を撃ち放った。

――ドゴゥ

突き刺さる風の拳。
サジンのアゴに草薙の拳が突き刺さっていた。

「ぐがっ……」

サジンが膝をおる。
草薙のクロスカウンターがサジンに決まっていた。

「馬鹿、な」
サジンが漏らす驚愕の気息。
あり得ない、こんな事はあり得ない。
自分を相手にクロスカウンターなど。
尋常でないダメージを受けているはずだ。
それなのに草薙は笑っている。
「なん、だその強さは」
戦いの中でサジンは問う。
その打たれ強さの源泉はいったいなんなのだと。

その問いに草薙は――

「――主食が白米だからだ」

威風堂々そう答えた。
瞬間――

――ドゴオオォォ

瞬間、振り抜かれる嵐の拳。
拳の圧力にサジンの体が宙に浮き――
「ぐっおおおぉぉぉ!!」

草薙の嵐のような拳圧にサジンが凄まじい勢いで吹き飛ぶ。
バウンドし、地に叩きつけられる。
そして、草薙は
撃ち抜かれた拳を引き、淡々と言葉を続けた。

「日本の米を食ってるからな。もちろん強いとも」
更にここで日本をAGEてきた。

「ッぉぅ!!」

サジンは言葉を失う。
怒りで頭がおかしくなる。

駄目だ殺そう今すぐに。
素直にそう思った。はずなのに――

「くっ――」
サジンの口から出たのは意外なものだった。
「くっクハハハハハ――」

サジンは笑う。大笑する。

屈辱でおかしくなったのか、おそらくそうだろう。

(なんだこの男は。有り得ないぞ)

怒りと屈辱がサジンの胸に燃え上がる。
しかし同時に草薙もサジンの攻撃を受けていた。
(この男は……)
再びサジンに強撃を与えた草薙悠弥。Fランクのこの男に執行者たる己がは
圧倒されている。

自分は強く清い者であるという自負が根こそぎ崩れていく感覚にサジンは戦慄する。
そして感じる事があった。
この目の前の草薙悠弥という男は人の道から外れた存在であると。
弱く野蛮で汚らしい存在であると。
その人間に圧倒されているという事実が彼を激させた。
激しい怒りを凝縮させサジンは呟いた

「――認めてやる」

瞬間、サジンの周囲が爆発する。

「!!」

空間を圧倒する爆発を、草薙が全速で回避した。
「やるじゃねぇか、リュシオン野郎」
草薙はサジンを見た。
サジンもまた爆炎の中、草薙を見ていた。

憎悪が燃え軽蔑が湧いてくる。
だが一つわかる事があった。
草薙悠弥という男は自分と同じく、強いリスクを怖れず戦ってくる。
自身のダメージを顧みず、バルモワをクロスカウンターで倒した時、サジンは気づかざるをえなかった。

そして拳を交えてその疑念は確信に変わった。
この草薙悠弥という男は、身を捨てて戦っているという事を。

サジンの爆撃の拳を前に、風のように駆け、特攻するように死線を
くぐる草薙悠弥。

サジン・オールギスの戦いは多大なリスクを負ったものだ。
血液爆発による身体能力の引き上げは通常の神理者であれば即座に自壊を引き起こす。
それを制御できるようになるまでの修練は想像を絶するものがあった。

だが草薙悠弥、この男はそんなサジンでさえも想像も及ばないような捨身の覚悟で戦っている。

多大なリスクを乗り越え、敵を倒す力を手に入れたサジンだからこそそれがわかってしまう。
その心の動きは単純な生存本能でもあった。

草薙悠弥男への認識の齟齬は敗北に繋がると、サジンの戦闘本能が警鐘を鳴らしていた。
認めざるをえない。
草薙悠弥の捨身の力は怖れるに足る存在だと。

故に――

「ここで燃やし尽くしてやろう――リュシオンとして」

瞬間、空間が爆ぜた。
サジンの爆撃理法が空間を蹂躙する。

「きゃああぁぁぁぁぁぁ――」

くノ一達がサジンの放せられた熱気に苦鳴をもらした。

「ハッ!?ハハハハハハ!!」

サジンの大笑が悪夢のように響き渡る。

「なん、どすかあれは」
「el――なんて……力……」
暴炎うずまくサジンの姿に 、タマノとエリミナは本能が警鐘を鳴らす。

「いいぞおぉぉぉ! 実に、実に愉快だぁ!! 貴様を敵として認めてやるよ外道者」

渇破と共に爆ぜる殺意の爆炎。
爆ぜる炎が空間を圧倒する。
「潰してくれる、 全員潰してくれるぞ!!世界の正義の前に」

哄笑するサジンの姿はまるで魔神のようだった。その姿に風守の少女達も、タマノやエリミナの様な異種族でさえも、本能的な恐怖に震えるほどの力がサジンに渦巻いていた。
サジンの血液が燃え上がり爆ぜて更に駆動する。
爆炎理法を振るい神域を蹂躙するその姿は人型の爆撃機。

その爆炎の波濤は倒れている守護者達に迫った。
それを止めるべく草薙が守護者達を庇うように立ったその瞬間。

――ガギィン

「!?」

瞬間、弾丸の速度で至近したサジンの爆撃の拳が放たれた。
骨が軋む音をたて、草薙の体が後方に弾けとぶ。

追撃するサジンの総身が赤熱。爆発するように跳躍したサジンが吹き飛んだ草薙に肉薄する。

ドゴンという耳を焼くようなサジンの拳の衝撃音。
絨毯爆撃のようなもうが草薙を襲う。

サジンの猛撃が草薙に炸裂する。
――ドゴォ

激しい炸裂音と共にサジンの爆裂の拳が草薙を打った。

(ちぃぃッ!?)

草薙の全身にはしる衝撃。骨を直接殴られたような衝撃に体が震撼する。
だが草薙は踏み止まった。

既にサジンの力は限界まで高まっている。
自分が後退すると後方の手負いの巫女やくノ一達は、爆炎の前に焼き殺されるだろう。
(そんなもん――認められるわけねぇだろうがぁ!!」

草薙が風を纏い疾走。
サジンの拳が爆撃の拳がが迎え撃つ。
サジンの爆裂の拳が放たれた。
文字通り火をふき草薙に迫る高速の攻撃。
しかし、草薙は一切減速する事なく駆けた。

――ビュオオォォ
頬を抜ける死の攻撃。
体をかすめうがつ死の攻撃。
だが草薙は止まらない。
サジンが驚愕に目を見開いた。

そして――

(くたばれぇぇっ!!)

草薙が一撃を撃ち放つ。
風が咆吼し、拳がサジンの頬に打ち込まれる。
サジンの脳が揺さぶられる。

「ぐおっ!?」

サジンの総身に骨が砕ける感覚。
草薙の攻撃にサジンがゆらいだ。

「世界も何も関係あるか。他者を犯さないと自分の正義を保ってられん馬鹿がでしゃばるなよ――」

草薙の怒りは理不尽に他者を踏みにじる者へ怒りだった。

上辺だけの綺麗事で、一方的な正義で、日本人を汚らわしい者と断じ暴虐を働く――そんな者を許す気はない。
そして――

「お前は俺の国民に手をだした――だからお前はここで倒れる。それだけだ」
「きさ、まぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーー」

爆発する怒り。迸り逆巻く理力を纏いサジンが一気に襲いかかる。
一撃が交差する。
吠え猛り今の今まで練り上げた理法を展開させる。

草薙が動く。
サジンが動く。

「くたばれぇぇーーーー」
サジンが神理を発動。
激流の火炎が草薙を飲み込む。

「はああぁっ!?」

草薙が踏み込む。
極限の集中。
恐るべき爆炎がスローモーションのようにゆっくり広がるのを感じた。
――音が消失した。
サジンの速射砲のような轟音も、爆裂理法の轟音も途絶した。
集中する。

「――風よ」
だが瞬間、草薙から放たれた「蒼」がサジンの炎を霧散させた。

「なにっ!」

サジンは震撼する。
一瞬、蒼い風をみた気がした。炎を駆け抜け疾走する敵手の姿。
草薙悠弥が真っ向から理法をぶちやぶり接近する。

障害があろうと関係ない、何者にも揺るがぬも己を持つ無己の嵐。
その目がサジンをとらえた。

「――お前は国敵だ」
心胆が凍るほどの冷たい声だった。

「消えろ」
静止する空間、加速を続ける知覚。
掲げられるのは無道の右手。
一瞬の静謐。
嵐の前の静けさ――そして

「――拳嵐武闘」
瞬間、嵐が吹いた。

「ぐおっ、おおおぉぉぉ!!」
乱打乱打乱打。
風を纏いし拳嵐武闘。
爆撃機の如く勢いを有するサジンを凌駕する拳の嵐がサジンを撃っていく。
「ぐおおぁぁぁぁ!?」
サジンが穿たれていく。
素手で戦闘機を圧倒するが如き不合理。
だがその不条理を草薙は実現していた。
撃ち放たれる風の一撃。
投下される爆撃の一撃。

草薙の攻撃にサジンが吹き飛ぶ。
サジンの攻撃に草薙が吹き飛ぶ。
彼我の距離が開いた。

「国敵討滅――」
「――神よ裁きを与えたえぇぇぇ!!」

共に全力
共に全霊。
ならば勝負はここで決まる。

「神理よぉぉぉーーーーーー!!」
世界を犯す統世の大音声。
サジンが神理の扉をこじ開ける。

倒す殺す燃やし尽くす。
燃え上がる心理。

この神社の命を燃やし尽くさんと凶の力が膨れあがる。

「世界より来たれ、規の法。世界潮流を肯定せよ!」

サジンが一言を紡ぐ度、凶炎が膨れあがる。
その凶暴な攻性の炎理は恐るべき勢いでその巨大さをましていく。
爆炎の上位理法。統世機構の「規世」の法だ。

サジンに集束し、膨張する炎の球体は膨れあがり暴威の熱が溢れていた。

「規世始めし国喰らえ世界に融け去れ怨国の法」

――サジンの詠唱が完成する。

「十全明証ォォォォォ――」
此処にサジンの破壊の法が顕現する。
「バルグロ・リューガノス――エルフレム!!

完成する怨日の理。
サジンが渾身の理法を放つ。

「ッツあれはっ!?」
「なんて……熱量ッ!?」

爆発し流れ込む紅の奔流。どす黒い炎の球体が迫る。
世界の理を掌握した統世機構の理を体現している。
数千度を超える熱は骨も残らず焼き尽くすだろう。
巨大な炎はかわせない。
避けられない。

「あっ……」

草薙の後方には、巫女達の姿。巨大すぎる質量を持つ炎体は一人でも多くの
人間を焼き尽くそうとしている
これを避ければ、彼女達はこの爆炎の法に呑まれ焼け死ぬ事だろう。

「終わりだぁぁぁ!! 」
サジンは勝利を確信する。
認めたくないがこの男のスピードは想像を絶している。このような大技でもかわしかねない。
とらえられないなら、とらえられない状況をつくるまで。
大質量の火炎が草薙と、倒れた風守の守護者達に迫る。草薙が避ければ大質量の炎は巫女達をやきつくすだろう。

(認めてやる。強い、強いよ貴様は――だが――)
だがそれだけだ。
(ただ強いだけの人間だ。それ以外の何者でもない)
この巨大な爆炎が全てを飲み込む状況を覆せるはずはない。

後方には、早綾をはじめとした風守の巫女達。
避けると確実に死ぬだろう。

しかし――

「理法定立――」

時が静止したかのように、草薙が手をかざす。
草薙はこの時この瞬間、自分のルールを投げ捨てた。躊躇いはない。
彼は無道。ルールや常識などあっさり投げ捨てる。
己の国民と己のルール。どちらを選ぶかなど考えるまでもない。

深きへ潜る――心理の海へと。
新たに立つ――真理の地へと
高く達する――神理の空へと

時が静止し、感覚が白へと塗りつぶされる。

詠唱が紡がれる。

「国敵討滅――」

心の理が質量を帯びる。
真の理が震撼していく。
神の理が現出する。

「――蒼生守護」

詠唱は只その一言。
己の国民を守るという誓い。
それが草薙悠弥のシンゆえに。

生まれる心理
変革する真理
顕現する神理
心理は真理に繋がり真理は神理と成る。

「――十全明証」
風ノ詠が法定を完成。
瞬間、風が吹き荒れる。

「――ッ!」
くノ一達は刹那漆黒の風を幻視する。
しかし現れたモノは別のモノだった。

「あれは!?」

現出したのは――蒼の風。
蒼光が顕現していた。
蒼光はまるで蒼生を守る守護の光のようだった。

彼の手に一点に凝縮された嵐。
それも只の嵐ではない。
国敵討滅――絶対の誓いを纏った神の嵐だ。

「蒼生神理――」

剣を抜くように草薙の腕から放出される力の波濤。
そして彼は詠唱を完成させる――

「無式――蒼神風!」
蒼の風が放たれる。

放たれた風
一点集束された極大の嵐が流星の如く国敵に飛来していく。
蒼の風が炎を突き破る。

蒼光が奔る。
蒼風が奔る。

嵐を凝縮した如くの神理が全てを打ち破った。

「なにっ」

炎が霧散する。
嵐は炎を一直線に貫いた。

蒼風となり、炎は塵となり霧散した。
「ばかなっ!」

炎の理法が破られた。
迫る蒼の嵐。
絶対的な力が吹き荒れる。
蒼の狂風は真紅の爆炎に衝突。
蒼光が吠え猛り、炎を一直線に切り裂く

サジンの渾身の神理が破られた。その衝撃に彼は完全に動けない。

「ッア゛ア゛……」

幾重にも張られたシールドが砕け散る。

「馬鹿な馬鹿な馬鹿な」
迫る蒼風。

蒼風がサジン・オールギスを撃破した。

「馬鹿なああああぁぁーーーーーー」

総身を駆け抜ける蒼の衝撃。
サジンの力が滅されの総身から力が消失する。
凄まじい衝撃にサジンの意識が黒に沈みそうになる。
意識を手放しそうになるサジンに声が響いた。

「奴に伝えておけ」

宣戦するように、草薙はサジンに誓いを叩きつける。

「俺の国民に手を出すな」

彼の宣言は日の下へ響いた。

「貴様……は……いったい」

絶たれゆく意識の中サジンは最後の力を振り絞って問うた。

「言っただろう、俺は――」
そして草薙悠弥は宣言する。

「――只の日本人だ」