70話
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「悠弥様……」
<命>は胸を抑えた。
祈りの光は風にのり広がる。
癒しの神理が傷ついた人間を癒している。
だがその負荷は尋常では無い。草薙悠弥の次に肉体に負荷がかかっているのは
間違いなくこの少女だった。それでも彼女は癒しの祈りを止めはしない。
「あなたの国が……無事でありますように」
祈りと共に彼女は草薙悠弥に捧げた。
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「死守せよ!
絶対に抜かせるなあぁぁぁ!!」
北条時継が魔物を両断し檄を飛ばす。
条理を逸した奮戦により北条時継は死守していた。
「わしら鎌倉武士を下に置けると思うなよ。大陸どもぉぉぉ!!
礼を失したその行い!! 御仏の元で悔いるがいいっ!!」
前線に立ち檄を飛ばす才覚は尋常のものではない。
戦線を押し返すまいと戦うその姿はかの時代の鎌倉武士もかくやの
奮戦ぶりであった。
「これが前線!」
北条が叫ぶ!
「これが北条! 目に焼き付けるがいい大陸よ!!!」
己の真を示す。
「はっはははぁぁ! やはり前線はいい! 見ておるかご先祖様よ!」
血と死の戦線で北条は天に問う。
「聞けい! 我が北条! 聞けい! 我が敵よ!」
「北条の戦いが、百万の敵を滅ぼす神風の礎である事を知るがいい!」
オオオオオオオオオオォォォ
鬨の声をあげる北条武士。
神風をおこすために――彼らは戦う。
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「くっ……もう駄目か……」
「限界だちくしょうおおぉぉ」
進撃する侵略軍を前に防衛隊の人間は壊滅寸前だった。
何度か魔物の進撃が減退し、押し返した局面
やはり数が圧倒的にすぎる。
「があああぁぁっ」
魔物の一撃が肩を貫いた。
「ち、ちくしょう」
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「こいつら、数が多すぎる」
「も、もう駄目……」
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「万事休す、か」
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絶望が呑み込もうとしていたその時だった。
「ガアアアアアア」
「GAGA、GUGUGUGU!?」
「GIGIGIGIG」
魔族が、魔物が苦しみだした。
全ての魔物ではない。
まるで肉体に異物が流されているかのようなものに苦しんでいるかのようだった。
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「ま、魔物の動きが止まった!?」
「な、なにがおこったんだ!」
◆
「これはいったいっ……」
◆
日本全国で起こった魔軍の異変。
虐殺の停止。
それをなしたのは――
「――国敵討滅」
天に響く声だった。
「ガッツ
中枢から聞こえる声は――魔神ではない。
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「草薙!」
「――悠弥!」
中枢から聞こえた声は――草薙悠弥。
黒髪の日本人。
久世零生ではない日本人。
魔神が滅びた中枢の座に一人立つ。
魔の動きが停止する。
そして――
「――国敵討滅」
草薙悠弥は世界に向けて宣言する。
「――俺の国民に手を出すな」