68話

悠久ノ風 第68話

68話 


草薙は魔神の顔面へ一撃を叩き込んだ。

――ズガアアァ!!

天震える凄まじい神撃。
神速で迫る草薙悠弥の拳の一撃が神の理を纏う。
蒼光をまといし魔神に一撃をくらわせた。
魔神の総身が抉られる。
だが――

「なめるなよ――極右があぁぁぁ!」

だが魔神は滅びない。
再生を超えた復元を開始。同時並行で紅の破壊魔力が昂ぶる。
そして――

「――絶望を捧げよ」

超破壊の法を展開。
爆ぜる空。
空が裂け血の雨をふらせるようなおぞましいまでの力の波濤。

奈落の空が墜ちてくる。
「――死ね」

魔神が死の雨をふらせた。

幾百幾千の魔弾の雨が草薙悠弥に降り注いだ。

「ぐあああああ」

魔の雨が草薙悠弥を抉る。
だが――

「おっ、おおおぉぉぉ」
傷だらけになりながらも、草薙悠弥は――

「日本人をおおぉ!」

前に進む。

「なめるなあああぁぁぁ!!」

日本人を苦しめる大陸の魔神を討つために!!

「ガアアッ」

捨て身の一撃に魔神は吹き飛んだ。

「くっ」
草薙の全身から血が噴出する。
傷だらけになりながらも、草薙は立つ。

「さすがだな草薙悠弥」

「…………」

「貴様はつくづく狂っているよ」
血を流させた草薙へ魔神は語りかけた。

満身創痍の草薙を見て魔神は心から感嘆する。

「なぜそこまで日本のために戦う?」
透徹した問いが響く。

「この国は終わりだよ。いや正確にはとっくに終わっていたのだがね。
この日本が神異となった時から」

「…………」

「ガルディゲン、リュシオン。この二大国から狙われたのだ」

魔神は続ける。

「ここまで永らえたのが既に奇跡なのだ」

魔神が事実を列挙する。

「だからもういいだろう。
この国は終わるが貴様はこのまま殺すには惜しい」

心から惜しむようにいう

「仲間になれ虚神」

魔神は草薙へ手を伸ばした。

「仲間になれば世界を一つ全てくれてやろう」

「魔王みたいな事をいうな」

それより性質が悪い。
世界の半分ではない。
一つの世界全て。
そしてそれは嘘でない事もわかる。
だからこそ徹底的に性質が悪い。

「破格の条件だ。数百年、ここまで戦ったのだ。
我ら魔族にも敬意を表する心くらいはある」

「……悪くないな。
ああ悪くない。
だが――」

そして――

「――だが断る」
蒼光が爆発する。草薙がためにためた神撃が魔神を飲み込んだ。只話を聞いているだけでは断じてない。
この間隙に必殺の法を編み込んでいた。

「わかっていたが……やはり救いようがないな虚神」

「俺は嘘も裏切りも欲望も心がわりも平気でする男だ。だが――」

草薙の気が湧出する。

「日本を守る事……それは……」

誠心をもって。

「それだけは……」

真を紡ぎだす。

「真実だ」

「救いようがないなあああぁ!!」

魔神が赤熱した腕を掲げた。

「それもまた良しィィィィィ」

草薙も蒼の神撃を撃ち放つ。
ぶつかり合う力と力。
鬩ぎ合う神撃と神撃。

そして――

「ぐあああっ」
草薙が吹き飛んだ。

魔神の力は凄まじい。
それは創世神器によって力を増した今の草薙でさえ吹き飛ばす。

「――絶望しろ日本人
ここに我らガルディゲンの神世は実現する!!」

両手を広げ、魔神は満天下に謳い上げる。

「絶望を捧げよ日本人。
貴様ら神異一億の絶望が、我らガルディゲンの神世の礎となるのだ」

背後で駆動する天覆う神法の陣が明滅する。

「――永遠に眠れ、虚神」

瞬間、紅光に明滅がする世界。

(あの攻撃か……!?)

それは風守で草薙を飲み込んだ極大の破壊光。
魔軍のリソースを抽出し、極大の紅光を顕現させる。
草薙が創世神器でパワーアップしている事も想定して、更に威力を高めてある。

「我ら魔大国の――神世界の贄となるがいい!!」

放たれる極大の破壊光。

「――――」

紅の破壊光が草薙悠弥を飲み込んだ。
明滅する魔天。

破壊の光が天に屹立する。

「――終わりだよ、草薙悠弥」

確かな手応えがあった。

「くっククっ」
嗤う、魔神が嗤う。

「クッ! クハハハハ!!」

嗤う嗤う嗤う嗤う。

「ヒャハッ! ヒィーーーヒャッハッハ!!」

確信があった。
――草薙悠弥は消えたという確信だ。

だがその時。

「――国敵討滅」

神理が響く。

「!!!!」

底冷えする声に魔神が戦慄する。

――ザン

亀裂がはしる。
紅光を切り裂くものがあった。
紅光にはしる一筋の異物。
それは草薙悠弥の蒼光ではない。
一筋の――漆黒

「馬鹿な……」
あり得ないあり得ないあり得ない。

あっていいはずがない。

「――神風無道」

紡がれる無道の箴言。

――ザアアア

刹那、漆黒が紅光を切り裂いた。

「!!」
戦慄する魔神。
それは魔神の永き生最大の恐怖
そして――

「――滅びろ国敵」

――最大の死の予感。

「無に還れ」

銀極の白髪。
漆黒の風。

「貴様は……貴様はまさかッ!?」

虚神の姿に魔神は戦慄する。

「虚神――久世零生!!」

――漆黒。
真ノ滅びの風が吹こうとしていた。