61話

悠久ノ風 第61話

61話 


――ここで殺す。

――ここで滅ぼす。

草薙悠弥が魔天を見据える。

彼が願うのは虐殺の滅尽。

一億総殺。
ジェネシス・ジェノサイド。
虐殺軍を司る魔軍の中枢。

「ここで討つ」

「なっ!」

風守の人間が驚愕する。

日本全国でおこっている虐殺を止める。
草薙悠弥が言っているのはそういう事だ。

荒唐無稽。
絶対不可能。

魔天は遠く、魔軍がひしめく現状でそんな事は不可能だ。

Sクラス、いやSSクラスの神理者でも不可能だろう。

だがそれを妄言とは誰にもいえない。
なぜならこの日本人はなしているのだ。

絶望の窮地にある風守を何度も助けたのだ。
リュシオンから。
ガルディゲンから。

救ったのだ。

絶望に満ちたこの日本の状況。
だが――

――それでも草薙なら。

草薙悠弥ならきっとなんとかしてくれる。
そう信じてしまう。

リュシオンのグロバシオの撃破。
ガルディゲンの魔戦将四人の撃破。
その積み重ねがある。
信じるに足る事をこの男は為したのだ。

「状況は整っている」

「長殿……」

「北条も武宮も戦っている。
他の奴らもだ。魔天にヒビが入っている」

武宮京士郎、北条時継らの戦い。
そして……

「奴ら……十三帝将もいる」

「……」

「カイリもいる……他の奴らもだ」

「…………」

天代巫礼は沈黙する。
知らないわけではなかった。
ただあまりにも強大な力を有する者達が現在進行形で同時に戦っていると思うと
世界が崩れるような感覚があった。

「……世界でも終わらせる気かの」

「ガルディゲンもリュシオンもそういうものだろ」

奴らが本気でぶつかれば世界は崩壊する、それを大なり小なり理解しているからこそ
世界はなんとか今の形をととのえているのだ。

「この国が滅ぶか滅ばないかの瀬戸際だ。今は利用できるものは全て利用させてもらう」

(あいつらは……俺ほど終わってない)

彼らは彼らの思惑があり戦っている。

欲望。
復讐。
狂気。

(――それもまた良し)

清濁併せのむ。
草薙悠弥は正義の味方に非ず。

非道も正道にもこだわらない。

今最も優先すべきは多くの人間を助ける事。

虐殺魔軍を滅ぼす事だ

魔軍に生じた隙。
僅かな空白。

絶対防御を誇る中枢に綻びが生じている。
草薙が討滅した多くの魔族。
全国で戦う神理者達。

そして――

(――神風結界の起動は)

「――」

「――」

「――」

「――」

「――」

「――」

(十分か)

全国の神風結界を感じる。

「天代」

「何じゃ?」

「……俺は守りたい」

「この日本を守りたい」

「……そうか」

「草薙様……」

草薙悠弥の素直な言葉を聞いた気がした。

この日本を守りたい。
それは真の言葉だと誰もが思った。

草薙悠弥、その本当の心はわからない。
だが一つだけわかるものがある。

どんなに数多の過去があろうと。
どんなに複雑な内心があろうと。

――日本を守る

その心だけは間違いなく真実なのがわかる。

だから――

「わしらの全てを預けよう」

「草薙様」

「草薙様」

助けられた風守の人間は確信していた。
草薙悠弥にどんなものを秘めていても
この日本を守る事だけは絶対の真であると。

「――創世神器」

草薙が叫ぶ。
――ゼザアアアアァァ
同時に光が顕現した。

ガンドウを倒した時に集束した蒼光。
蒼光が剣を形どる。

「あれは……」

風守の女達はその剣を見た瞬間感嘆を漏らした。

「まさか……」

――創世神器。

草薙悠弥を覆っていた光の一つ。

創世神器の光。
大戦の伝説。
幾多の国敵を滅ぼし
数多の国民を守った伝説の英雄。

虚神――久世零生がふるった
伝説の剣。

国敵討滅――

「長殿!!」

天代が叫ぶ。
蒼光の嵐の中、草薙悠弥は限界を突破する。

風守は守れた。
だが今や日本は数多の絶望に覆われている。

――国敵を滅ぼし

ゲスだろうがクズだろうが知るった事ではない。

――蒼生を守る。

そのために草薙悠弥は在ると知れ。

「長殿……補助は任せよ」

天代は理解していた。

「風守の全ての力をお主に捧げる」

草薙は肯定した。

「中央突破だ」

百万の軍勢の頭。
それを潰す。

「――国敵討滅」

草薙は天空に吼えた。

「――蒼生守護」

伝説の剣は先端を向けるのは――天。
照星のように天に鎮座する大魔界。
百万の軍勢の頭であり中心だった。

遂に伝説の剣がその真を表す。

「これで……」

草薙悠弥が見上げる。

「これが全て助ける……」

この日この瞬間。

「この国の運命……」

日本で苦しんでいる人間がいる。
日本人を苦しめる者達がいる。

故に国民を守る。
故に国敵を滅ぼす。

「おおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」

獅子吼が響く。
風守全体を励起させる蒼の光。

撃つは魔天。
倒すは神天。

嵐が展開する。

「あなたは……」

「やはり……虚神様……」

創世神器。
剣と一体になる。

「くらっええええぇ!!」

創世神器の軌跡が作りだした光の道。
蒼の神撃が道を開き神理の道を作ったのだ。
魔神に放った蒼の神撃も。
魔神との鬩ぎ合いも。

草薙悠弥の逆転の一手のために。

「まさか……」

風守が驚愕を以て草薙をみる。

「――中枢に特攻する」

「!?」

何をいっているか理解できなかった。

衝撃的なその言葉に

「どういう、事ですか?」

既に魔戦将は倒した。
だが虐殺は終わっていない。
日本人が殺され続けている。

故に草薙悠弥は立つのだ。

(ここからだ……)

この先が本番。
決死の天王山。
全てのこの神風のためにに。

「まさか……」

「魔神を討つ」

「草薙様……それは……」

「狂ってるぞ!!」

葉月が思わず叫ぶ。
正気ではない。
死ににいくようなものだ。

「正気か!? 草薙!!」

「……正気じゃろうて、長殿は」

「天代様!?」

草薙の言葉に慄然とする風守の人間に天代は言葉をかけた。

「虚神は日本を守るためになんでもしてきた……自身がどうなろうとな」

「そんな……ですが彼はもう……十分過ぎるほど戦いました」

「――ガルディゲンは今何万もの日本人を殺している……さっきのやつらのようにな」

草薙は言葉を継ぐ。

「一億総殺、虐殺は続いている」

重々しく呟く。

「日本中、地獄だ」

草薙の声が響くいた

「っ……」
「……っ」

くノ一達は言葉を失う。
風守を襲ったガルディゲン。
草薙が助けにくる前の風守のような地獄が日本中に展開されている。
地獄を体験したばかりの風守の者はそれがどれだけ惨い事か実感できる。
それを考えるだけで心が蝕まれそうだった。

「――だからやる」

「!!」

草薙悠弥が風のように広がる。
心を蝕む魔を払われたような感覚が、風守の者達は感じる。

「草薙……様」

確かな決意に、風守の女達は惹かれた。
「あっ……」
日本の守護者たる風守の女達が圧倒されるほどの強度を感じ思うのだ。
――この人は日本を守る存在だと絶対的な

草薙が拳を握る。

「俺が……この俺が……」

見据えるは魔天。

「あいつらを滅ぼす……」

瞬間、光が励起した。

創世神器が光を帯びる。
草薙が嵐と化したように風を帯びる。
それは中枢へ突貫するための凄絶な刃の如き嵐だった。

「国敵を討滅する」

――特攻。

ガルディゲン中枢の魔神に特攻をかける。

自分自身をぶつける。

神ノ風と化し、中央に突っ込む。

――馬鹿野郎。
――愚か者。
――愚の骨頂。

だがやる。
草薙悠弥は、虚神はそういう存在だからだ。

草薙悠弥はこのために用意をしていた。

「日本を守る風で」

それは歴史が証明する真。
全てはこのために――。

「――神風で」

この国を守るために。