56話

悠久ノ風 第56話

56話 


「はあああぁぁぁっ!!」

クロフヴァンテの魔大剣が振り下ろされた。
幾千の人間の血を吸い魂を食らった魔剣が吠え猛る。

「クヒヒヒヒヒ!!」

魔鋼の魔戦将スパグナーが手を掲げた。

「ハアアアアアアアアア!!」

天を犯す如く手を広げる魔戦将スパグナー。
瞬間――

ゴオオオオオォォ!!

「我がガルディゲンの怨敵、虚神!」
爆発するように魔の糸が天に広がった。

展開する魔鋼糸が草薙の肉体を絡め殺さんと
四方八方から襲い来る。

「あの糸は……」
「だめ」
「あれは……」
「かわせません!?」

スパグナーと交戦していたくノ一達が叫ぶ。

――ジュジャアアアア!!

魔の鋼糸が意志を持ち、襲い来る。

「この虚神を殺れば、私は、私はあああぁぁぁぁ!!」

鋼糸の魔技はかのかの魔戦将戦歴最高の冴えを見せていた。
叫べ苦しめ絶望をさらせと魔鋼糸が襲い来る。

「叫喚しろぉぉぉ! ヘイル――バインドォォォォ」

言葉が神理となり魔力が膨張。
魔技が解放される。
魔鋼糸が膨張する魔力に包まれ、凶性を帯びる。

――ズオオオォォォ
おぞましい音をたて
幾重にも枝分かれする魔鋼。

空間全体を覆うような魔鋼糸が顕現した。

「ヒッ!?」

おぞましいほどの物量に思わず息を飲むくノ一達。

「ハハハハハ! 誰にもかわせぬ破らせぬ!」

草薙が突っ込む、幾重に張られた魔鋼糸の魔技を打倒するべく
神理を放つ。

「聖霊の風」

撃ち放たれた風。風と聖を合体させた技が、
スパグナーのヘイルバインドを、
地獄から吹き付けるような嵐が圧倒する。

「なにっ!?」

驚愕するスパグナー。

風はいい。だが聖霊の性質を帯びているのはどうした事か。
異なる系統を掛け合わせた合体技。
その特攻効果は、スパグナーの必殺を霧散させた。

「こんな事が……私の魔鋼糸がっ!?」
恐怖するスパグナーの目に映るは殺気満ちる虚神。

「何人苦しめた?」

切り裂かれ、血を流しながら草薙悠弥がスパグナーに至近する。
底なしの虚無めいた瞳で日本人を苦しめた罪を弾劾する。
それはスパグナーという外道すらも心胆から恐怖せしめた。

「ば、馬鹿な! わ、私の!」

「――国敵」

草薙が神理を紡いだ。

「ヘイルバインドを!?」

「――討滅」

爆発する蒼の風がスパグナーを飲み込む。

「あぎゃあああああああぁぁぁぁぁ!?」

絶叫する魔戦将スパグナー。

「馬鹿な馬鹿な、こんな弱くて馬鹿で餌にするしか脳がない人間ごときに」

風が魔戦将を滅していく。

「日本人ごときにいいいぃぃぃ」

それが魔戦将スパグナーの最後の言葉。

「――滅びろ」

虚神の風が魔鋼糸の将を薙ぐ。
魔戦将スパグナーが粉々に消滅した。