55話
「俺の国民に手を出すな」
「まさか……」
「ありえない……」
数多の魔物を討滅し、魔生物ヒブラヒルまで滅ぼした草薙悠弥を前に
魔戦将達が驚愕する。
「草薙……」
「様……」
――まさか勝ってしまうのではないか?
そんな恐ろしい錯覚すら覚えてしまう。
一人一軍に匹敵するといわれる一騎当千の魔将。
それが四人。
絶望というレベルではない。
現風守の総力であたって一人も撃破できなかった魔戦の将
だがそれでも――
――草薙なら
――草薙悠弥ならきっとなんとかしてくれる
そんな恐ろしいことを考えてしまう。
◆
「……あれは」
「……ありえん」
「あの者……」
「まさか……」
四魔戦将にはしる衝撃。
圧倒的な力を有する魔軍を屠った存在――草薙悠弥。
魔生物ヒブラヒルまでをも倒したその力に魔戦将は驚愕する。
「虚神か!?」
魔戦将クロフヴァンテが草薙に問う。
そしてその問いに答えたのは――
――ザバン!
超高速で飛来した禍の欠片だった。
クロフヴァンテ達に飛来する魔物達の死骸。
血がぶちまけられ、血が魔戦将にぶちまけられる。
「――そんな事はどうでもいい」
「!?」
草薙の底冷えする声に魔戦将が戦慄する。
「俺の事はどうでもいい」
彼は無道。
「お前達は日本を侵略した。貴様らは日本人を苦しめた。故に――」
嵐が吹く。
「殺す、絶対に逃がさない」
国敵を滅ぼす嵐だ。
(震えている、だと……)
魔戦将クロフヴァンテは確信する。
草薙の応えが何よりの証拠だ。
「ああ、あぁ、ああ、アアアアァァァ!!
ごいつキケン!ゴイツキケンゴイツキケンンンンンン!!」
狂騒するサイクロプスの魔戦将ザンカイ。
一つ目の魔戦将がその巨躯を狂騒させる。察しているのだ本能で。
この中で獣に近いザンカイは本能で目の前の日本人を危険と判断した。
虚神。国敵を滅ぼす存在
「キヒヒヒ、どうやら本物のようデスネェェェ」
魔戦将フリューゲルが魔糸を駆動させた。
「ガルディゲンの怨敵」
「虚神!!」
瞬間、空間が爆発する。
「きゃあああああっ!?」
クロフヴァンテの魔大剣が爆発する。
――全て殺す
草薙を見据える魔戦将クロフヴァンテ。
ここで殺さねば
今ここで風守を――目の前の存在を殺さねば
――ここで殺す
――ここで滅ぼす
草薙から漲るのは殺気。
「国敵討滅」
瞬間、嵐が吹いた。
超密度の嵐。
風が薙ぐ。
「なああぁぁっ!?」
風が薙ぐ。
「ぐおっ!」
風が
「馬鹿な!?」
「これはっ!?」
驚愕は四魔四様。
隻眼の魔剣士は己の凶気を上回る凶気に戦慄する。
巨大なサイクロプスは己を上回る圧力に一つ目をむく。
――なによりも――
「国敵討滅」
日本人を苦しめる者を殺す。
国敵全て死に絶えろ――殺気が魔戦将を圧倒した。
「ザンカイ!!」
「オオオオォォォ!!」
ザンカイの巨体が駆動する。
幾人もの人間を、日本人を殺してきた魔族がその本領を発揮する。
ゴロスゴロスゴロスゴロスゴロスゴロスゴロス。
5メートルを越えるそのサイズは
人間ではありえない。
その巨躯は正しく魔の者。
「引き潰してビャラアアアァ」
進撃する巨大魔性。
地を蹴りあげるだけで震撼する大地。
それに対して草薙悠弥は
「――国敵討滅」
真っ正面から撃ち抜く構えを見せた。
「なっ!?」
「イカれてやがるッ!?」
草薙は正面から向かう。
無謀。
竹槍で戦車に挑むかのような不合理。
(ガルディゲン)
草薙悠弥は魔族をみる。
魔大国ガルディゲン。
イビル・エルソス・ジェノサイド。
世界最凶の魔の象徴。
狙うは只一点。
想うは只一つ。
「――滅ぼす」
瞬間、風が爆ぜる。
「くたばれえええぇ!!」
瞬間、巨大魔性が吠える
交差する両雄。
勝負は一瞬だった。
一瞬吹いた嵐。
それが勝敗を決める。
「ぐっおっ……」
一瞬の殺戮。
「――無道」
サガデリューロを一撃が貫いていた。
一瞬一点に嵐を集束させる。
瞬間、吹き抜ける嵐。
風がサガデリューロを滅裂させる。
「バガッツ!?」
風が吹く。否、それは嵐だった。
国敵を薙ぎ払う嵐が、魔を討ち滅ぼす。
「バガナアアァァァ」
響く断末魔。
国敵を滅ぼす嵐が、サイクロプスの巨大魔性――魔戦将ザンカイを滅ぼした。
いや、これは神話の再現というレベルではない。
神話がいま起こっているのだと、風守の守護者は確信した。
「馬鹿なっ!?」
魔戦将クロフヴァンテの心胆が凍る。
圧倒されし魔戦将
「一撃、だと」
「なっ……」
風守の女達は一瞬何がおこったか理解できなかった。
御白の巫女達は、風の主を見た。
特殊下忍もまた、風の主を見た。
その蒼の風はあまりにも鮮烈で。
神様だと思ってしまったから。
あれだけ風守を苦しめた、サガデリューロをたった一撃で滅ぼした。
(まるで……リュシオンの神理者を倒した時の)
あの光景が重なる。
リュシオンのバルモワ、シグー、テグムゾ。あの三人を倒した時の光景。
彼らを倒した時の光景が重なる。
「――リュシオンも」
リュシオンの四人を倒した草薙悠弥。
「――ガルディゲンからも……」
そして魔戦将四人を相手にする草薙悠弥。
リュシオン、そしてガルディゲン。
草薙の声には決意。
「日本を守る」
それは宿願だった。
それは真理あった。
故に絆
「国敵討滅」
お前達は日本人を殺した。
お前達は日本人を傷つけた。
草薙の声には殺意。
相手は魔戦将
言葉を継ぐ。
「滅ぼす」
リュシオンもガルディゲンも相手にする。
ありえない。夢物語だろう。
だが現実に、リュシオンとガルディゲンの四神、四魔を相手にした
草薙悠弥の言葉には、圧倒的な迫真力があった。
「狂ってやがる……」
四魔将の一人がいう。
「……草薙様」
風守の守護者はそれが荒唐無稽には思えなかった。
「草薙お兄ちゃん」
風守の者達は信じる。リュシオンからもガルディゲンからも守ろうとしてくれた風。
その事実を彼女達は総身で感じていた。
(日本を守るために……リュシオンとも……ガルディゲンとも戦った)
伝説は真実その通り。
なぜならリュシオンからもガルディゲンからも、草薙悠弥は風守を守ったからだ。
リュシオンのサジン達を倒し、そして今ガルディゲンの四魔将の一つを倒した彼女達は……
(まさか……本当に)
――何を敵に回しても日本を守る存在。
草薙の在りかたはその真実を象徴しているように思えた。
――お前達は何人の日本人を殺してきた?
「ッ!?」
零度の圧が魔戦将を停止させる。
――日本人なら何人殺してもいいと思ったか?
殺す。
――日本人は大人しいから、反撃しないから何をやってもいいと思ったか?
滅ぼす。
――自分が殺されないとでも思ったか?
滅べよ国敵。滅尽せよ。
「ッ!?」
草薙の純然たる殺気に魔族が震える。
四魔戦将の一人が欠けても、三人の魔族は健在
魔戦将軍クロフヴァンテ、
「――日本から出ていけ」
「このヘイト野郎がああああぁぁ!!」
魔戦将が突進する。
「――」
虚神が放つは討滅の神理。
虚神対魔戦将、
戦いの火蓋がきられた。