48話

悠久ノ風 第48話

48話 


――魔戦地獄。

「クググググ、贄! 贄! ガルディゲンの贄!!」

――魔戦将ザンカイ。

サイクロプスの魔戦将が魔の地獄を現出させる。

「絶望を吐ぎ出せえぇぇぇぇ!! 
簡単にはじなせねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

吠え狂う一つ目巨人。
隔絶した体力と巨体を誇る巨人の魔戦将の圧力は人智を超えている。

「まずい……のう」

天代の本能が敵手の危険性を肌で感じていた。離れていながらも、結界の中心である。

(最後の一線を守る事、今はそれが精一杯じゃな)

「護りたまえ」

天代の掌から光が溢れる。

「!!」

守護の光は風守の守護者を包んだ。
血を吐きながらも天代巫礼は守護理法
天代の得手は回復と補助。
特に防御と生存に関する法に長けていた。

重ねがけ。
同じ系統の守護理法は既にかけているが、この魔戦将ザンカイ相手には用心してし過ぎる事はない。

「はぁっ!」
「やあぁっ!」

守護者達がザンカイを囲んだ。

一番数が多い緑の守護忍が取り囲み、翻弄しながらこのサイクロプスの魔戦将の相手をするのが最適解だった。

クロフヴァンテの攻撃で吹き飛ばされながらも、瞬時に相性のいい人員を割り振るのは、彼女達、魔の者達と戦ってきた彼女達の練達の判断といえる。

だが――

「ヴォアアアアアアアアアア!!」

ザンカイの圧倒的なプレッシャーが守護忍を圧する。

「くううぅぅぅっ!?」
「あっ……」

空間を圧倒するザンカイの力。
その力を前に恐怖がわきあがってくる。

「怯えないで、イクわよ!!」
だが守護忍は唇を噛み締め、前を見据えた。

「展開!!」

ズラリと並び、展開する守護忍。

「くらいなさい!」

紫のレオタードのくノ一が煙幕を張った。

煙が魔戦将を覆う。
ただの煙ではない。
麻痺と幻惑効果を入れ込んだ特製煙幕。
同時に、女達が幻惑攻撃を展開。
ザンカイの動きを鈍らせにかかる。

闇に生きる者として、強大な存在と対する者には絡め手であたるのは
常道手段だった。

「ござがしいまねをおおおぉぉ」

だが、それすらもザンカイは超越する。

かすっただけで、吹き飛びたたきつけられる守護者達。
女の魅惑的な肉体を持つくノ一達の肉体が吹き飛び、壁にたたきつけれる。
骨が折れ、内臓がはぜ、瞬時に数名のくノ一が戦闘不能になる。

巫礼の補助理法がなければもっと酷い事になっていただろう。

「合体理法!」

その隙に高速展開した陣から合体理法を発動するくノ一達。

「虚神様のために!」
「虚神様のために!」

己が神を詠唱する。
集束する理力。

「イクわよ!!」

法撃が魔戦将ザンカイへ飛来する。
炸裂し、爆発する法光。

「やったかっ!?」

確かな手ごたえに声をあげるくノ一達。

だが――

「なっ!?」

次の瞬間、希望は絶望へと塗り替えられた。

「グヒヒヒヒヒ」

ズシン、と法光の煙の向こうから巨大な足音が響く。

「あまいぃぃ、よわいぃぃぃ!!」

理法の煙が晴れた先、サイクロプスの魔戦将が姿をあらわす。

「ころすころすごろすううぅぅ」

無傷、合体攻撃をうけてもなお不動。圧倒的な耐久力を有する。

ザンカイは健在だった。

「さぁ、ぜづぼうしろにほんおんなどもおおぉぉ!!」

吠え猛るザンカイが絶望をまきちらす。

――魔戦将ザンカイ。
サイクロプスの魔戦将
サイクロプスは魔族の中でも力と耐久力に優れた魔物だ。
人類種にとっての脅威の一つ。

ザンカイを前に、風守の守護者達は全霊を尽くす。

「八乙女・奉波」

風守の巫女が法撃を放つ。
爆発し、燃え上がる理法の光。
女達が生み出す退魔の光が魔戦将を覆いつくした。

「やったかっ!?」

一縷の希望に喜色をにじませる守護者達。
しかし、次の瞬間その希望は絶望へと変じることになる。

「ガガガ、ガガガガガ」

爆発の中から無傷のサイクロプスがあらわれた。

「なっ!?」

守護者達の背に落ちる氷塊の感覚。

「あれをくらって……生きてるなんて」
「これが……魔戦将ザンカイ……」
耐久力に優れたサイクロプスの魔戦将。
その魔戦将の力に女達の心を絶望が支配していく。

「いい絶望ダアァァ」

邪悪な魔力が漲りほとばしる。
サイクロプスが更に圧を増した。

「っ!?」

息をのむ守護者達。
恐怖し逃げ出さなかったのはひとえに彼女達の信仰が彼女達を支えていたから。
だが圧倒的なザンカイの力はその支えを壊そうとした。
そして――

「ガアアアアアアアア!!」
巨体が信じられない速度で迫る。

「くはあああぁぁっ」
「きゃううううぅぅっ!?」

ザンカイがくノ一達をなぎ倒した。

「うぐううぅぅ」

肋骨が折れ、内臓がやられるくノ一達。

「平和ボケしてやがるなぁッ!!」
おぞましい所業をなしたザンカイが羽虫を
はらうような所作で腕をふる。

「きゃあああぁぁっ!?」
「ぐええぇっ!?」

殺人的速度で、ザンカイの野太い腕がブオンと豪快にふられた。
人ものくノ一達が横薙ぎにされる。

女達の内臓が破裂し、地に倒れ付す

「きゃあああぁぁっ……」
「おぐぅっ、おおぉぉ……」

血と小便を垂れ流しながら、苦しみ悶えるくノ一達。

「ゲハハハハハハ!!

魔戦将ザンカイの哄笑が響き渡る。

絶望の太鼓を鳴り響かせるように、サイクロプスが咆哮した。

「ひひゃははははははは」

――魔戦将スパグナー。
魔鋼糸使い。
蜘蛛のごとき怪人が風守の女達をしめつける。

「んあああぁっ」

苦悶に悶える風守の守護者達。
女達の肉体には糸が食い込んでいた。

スパグナーの糸が風守の女達を拘束する。

四肢を拘束される下忍くノ一達が苦鳴をあげる。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ………!?」

女達の豊満な肉体に糸がギチギチ食い込む。

「これだけの数であたってるのに」
「なんて強さ……」

魔鋼糸。
攻防一体の魔の法具。
守護者達の攻撃は束になった鋼糸で防がれる。
そして……
「ひひゃはははーーー」
スパグナーに魔鋼糸による攻撃。

「うぅっ」
怪物的速度で展開する魔鋼糸が女達をとらえる。蜘蛛のような魔族が発する糸に守護者達がからめとられる。

「あ゛っ、あ゛っ、あ゛っ……!?」
「うっ、う゛っ、ううぅっ!?」
ブシュブシュと、魔鋼糸が無造作なほどび守護者達を貫いていく。

貫かれた女達が血を流し失禁する。

「お、おのれ」

数を頼りに四方八方からスパグナーに
殺到する守護者達。

ビュウウウウウ!

数多の魔鋼糸が伸びる。
多数の守護者達を上回る魔鋼糸。

「きゃっ!?」
「んあああぁぁっ!?」

獰猛な魔鋼糸が伽宮のくノ一の肉体次々をとらえ、締めあげる。

「あぐっっ!? くぁぁぁぁっぁ」
「あああぁぁぁぁぁ!?」

伽宮のくノ一に食い込んだ魔鋼糸が深々と、肉体に食い込み、苦悶の絶叫が
絞り出される。

「クヒヒヒヒヒ」

魔鋼糸の主が姿をあらわす。
呪いじみた陰気さを撒き散らし魔戦将、スパグナーだ。

「いい獲物が釣れました」
スパグナーが魔鋼糸を引いた。

「あっ、くぁっ、ふぁっ」
「んああぁぁぁぁっ!?」

吊るされた伽宮のくノ一達が苦しみにあえぐ。

「いい声で泣きますねぇ~~伝わってきますヨぉぉ、女の、とてもよく
育った肉体の感触がねぇぇ~~」

「はぐうぅっ!?」
「くうぅぅんっ!?」

風守の守護者達の
女らしい肉体に食い込む魔の鋼糸。

舌なめずりをする、スパグナーが陰惨に表情を歪めた。

「たっぷり絶望を搾り取ってあげます。
心の底から死にたいと、心の底からもう生きていたくないと思うほどの
絶望を搾り取ってから……」

「んっ、んんんんんっ!?」
「あううううぅっ!?」

更なる魔鋼糸が女達を覆っていく。
絶望そのものが女達を覆っていくかのようだった。

「――殺してあげますよぉ」

「クカカカカっ……!」

魔戦将マジハール。
魔法に長けた魔戦将は、複雑怪奇な呪法を顕現させていた。

「くぁっ……!」

「ああぁぁっ!?」

締め付けられ地に張った魔方陣から醜悪な触手が這い出た。

「クカカカッ……この風守の守護者は貴重な資源じゃ」

マジハールは嗤う。

「あっああぁっ!?」

ギチギチとしめつけられ悶える風守の守護者達。

「クカカッ、貴様らに問おう」

女達の叫びを背景音にマジハールは滔々と語る。

「なぜ戦うのじゃ?」

マジハールが問う。

「ッァっ……」
「うぅっ、あっ……」

「クカカッ、そう迷う事ではない」

マジハールは問う。

「そう、なぜ戦うか、なんのために戦うか、じゃよ」

「私め、達は……」
「虚神様のために……」
「日本を少しでも助けるために」

「クカカカ、純な答えじゃのう。じゃが……ワシの答えはシンプルじゃよ」

マジハールは答える

「資源じゃよ」

「しげっ……ん?」

「資源を得るための戦いじゃよ。人間という、な」

「!!」

 

「ただ殺戮するだけではない、絶望という資源を絞り出すのじゃ。
人間の負の感情こそ我がガルディゲンの資源。
特に、この風守の者から得られる絶望は実に価値がある。
あのリュシオンの神族を滅ぼす役にもたってくれるというものよ」

マジハールが滔々と語る。

たぐる言葉の非人間性に、風守の守護者が戦慄する。

マジハールの言葉は、風守の守護者にとって既知の事である。

ガルディゲンの魔族は人間の負の感情を一番の贄とする。
特に神理者の風守の人間の負の感情をガルディゲンの魔族は好む。
人間や神族でも、かの十神族のように、様々な人間の感情を集める存在はある。
だが、ガルディゲンの絶望の感情を好むありかたを前にすると、恐怖を
覚えざるをえなかった。

「はあああぁぁぁっ!!」

不知火のくノ一が、飛翔する。

美しき、風守のくノ一四人。

マジハールに四方八方から攻め入る。
だが――

「クハハハハハっ」

マジハールの足元が爆ぜた。

根元から、魔の触手が突き出る。

「あぐうぅぅっ」
「くはっ」

マジハールの迎撃魔術により、上空から攻めたくノ一が迎撃される。
だが――

「はあああぁぁっ!!」

マジハールを後方から、くノ一数名が攻撃する。

理力を帯びた法撃がマジハールを襲うが――

「呪王よ! 我に力を貸し与えたまえ!!」

マジハールの背後に超高速で描かれた魔法陣から魔の生物が這い出た。

マジハールが召喚した魔物はくノ一の悉くに食らいついた。

「呑め、魔物ども」

マジハールの指示と同時に、触手じみた魔物のくちがくぱぁっと開いた。

「う、上よ!!」

「えっ?」

魔物がくノ一を頭部から飲み込んだ。
「んっ!? んっ!? んおおぉぉぉっ!?」

ジタバタと足をばたつかせるくノ一。
頭から肩までスッポリと丸呑みにされたくノ一がジタバタと抵抗するも
魔物の強力な吸引のズルズルと飲み込まれていき、豊満な肉体が
魔物の内容物へと変わっていく。

「くっ!?

その光景を見たくノ一達の動きが一瞬止まった。
仲間を助けるべきか、マジハールに突貫すべきか迷いが生まれる。
それは一瞬、だが――

「バインド――クロウ!!」

その隙をこそ狙っていたこの悪辣な魔術師にとって
生まれた間隙は致命的なものだった。

「きゃあああぁぁっ」
「あああぁぁぁっ」

放たれた魔の攻撃は、くノ一達を吹き飛ばし大きなダメージを与える。

「ううぅっ!?」
「あぁっ、うああぁぁぁ」

絶望と痛みにくノ一が叫ぶ。

そして――

「クフフフフフ」

苦しみにのたうち悶えるくノ一達をみて、マジハールは暗く笑んだ。

「やはり風守の絶望は実に心地いいぃ」

「あ゛あ゛あぁぁあぁぁ」

「んおおおぉぉぉ」

女達から発せられる絶望はマジハールにとって極上の贄だった。

「もっとじゃぁぁ、絶望をもっと聞かせるのじゃあぁぁ」

 

マジハールの歓喜と共に、魔気が漂い、触手が蠢く。

「はああぁぁぁぁぁ!!」

クロフヴァンテが魔力を放出した。
地が震撼。常軌を逸した力がくノ一達を襲う。

「なっ!?」
「なんて力っ!?」

震撼する大地、

クロフヴァンテの桁違いの力に、ビリビリとくノ一達がプレッシャーに気圧された。

強い、その事実を肌で痛感する。

だが――

「私達、風守は引きません」

クロフヴァンテを止めるため、女達は決死の突貫を試みる。

「風守のために」
「風守のために!」

退魔の戦闘法装をまとったの巫女が陣形を展開した。
風守の守護者。
巫女の法装をまとった、退魔の巫女部隊。

水、風、縛。

法による攻撃を試みても、敵手は止まらない。

 

「ガガガ! その程度がぁ! 風守ぃぃぃぃ!!」

 

――魔戦将クロフヴァンテ。
クロフヴァンテが荒れ狂うように魔剣をふるった。
クロフヴァンテの魔大剣が結界を破壊していく。

「思った以上に、結界が強い」

クロフヴァンテの剣圧がくノ一を吹き飛ばした。

魔戦将クロフヴァンテ。
その強大な実力を前に、くノ一達は吹き飛ばされ、殴られ、
踏みにじられる。

「げほっ、こほっ」
「あぐっ、ああぁっ」

痛みに悶え苦しむ、くノ一達。

クロフヴァンテの魔剣は風守の結界を潰し、風守を犯していく。

「あぅっ、か、体が……」
「く、苦しい……」

魔剣から吹き上がる魔のしょうきがくノ一達を苦しめる。
魔に対するくノ一をして、それは耐え難いほどの悪性を有していた。

「もっとだ、もっと絶望を吐き出せ女ども」

守護者達の攻撃を受けながらも、クロフヴァンテは殆どダメージらしいダメージを受けていなかった。

「っ!!」
それでも守護者達は己の身を顧みずに悲壮な決意を灯し、地を蹴った。

「この身に代えても!!」

「はああぁぁっ!!」

決死の覚悟で挑む守護者達。

「囲んで!!」

戦闘可能なくノ一達がクロフヴァンテを囲んだ。

「合体理法、イくわよ!!」

合体攻撃。
彼女達、風守の守護者は合体攻撃ができる。
風守の守護者達の統一性は合体攻撃を有効に作用させる事を
補助する効果を有する。

「ハ乙女・桜咲神楽!!」

くノ一達の合体攻撃が発動する。
今のくノ一達が使用できる合体技の中で最高クラスの威力を有する合体技。
紡がれまとめあげられた理力が強力な合体理法――咲神楽を発動させる。
理の桜が舞い、放たれた広範囲攻撃は魔気を浄化し、魔戦将クロフヴァンテに迫る。

――ドガアアアアァァ!!

守護者達の合体攻撃がクロフヴァンテに炸裂。
理力の桜花粉塵が舞い散り、波動が爆発する。

「はぁっ、はぁっ」

「や、やったのっ……」

理力で形成された桜花が散る中、くノ一達は爆発の渦中を見据えた。
だがその瞬間――

グオォン!

渦中が明滅し、剣気が迸った。

「きゃあああぁぁっ」

渦中から放たれた波動が、桜花粉塵を霧散させ、風守の守護者達をなぎ倒す。

天に掲げるように、渦中から魔剣が突き出される。桜花粉塵を薙ぎ払い、煙の中からクロフヴァンテが
姿をあらわした。

「やってくれるな……虚神の眷属ども」
怒りとも感心ともつかぬ顔を浮かべ、クロフヴァンテが毒づいた。

「簡単には死なせん」

残忍な笑みを浮かべ、魔戦将が剣を掲げた。
魔剣に集束する凶気。
そして――

「フォビア・ヴイランスレイブ」

魔剣を地に振り下ろした。

鳴り響く凶音。
莫大な凶念が形となり、くノ一に襲い掛かる。
それは絶望を凝縮し、魔力を乗せた凶の散弾だった。

「きゃあぁぁぁっ」
「あああぁぁぁっ!?」
「くああぁぁっ!?」

凶魔の散弾がくノ一達を抉っていく。

「くああぁぁっ」
「うぐううぅぅ」
女達が苦しみにあえぐ。
急所は外している、意識を手放したくなるような

うがたれた肉体から、魔の呪いが女達の肉体に入っていく。

「あぐっあぐっ!?」
「ひあっ……あ゛っ、あ゛っ……」
死に勝る苦しみ、今すぐに死んでしまいたいと思うほどの激痛に
くノ一達がのたうち回る。

「うぅっ、ひぅっ、ううぅっ」
美女達がポロポロと涙を流す。
体の激痛と呪いの激痛が体中を駆け抜けた
それは痛みに慣れた格闘家であっても数秒で狂死してしまうほどの
痛みだった。
死ぬ事も狂う事もできず、絶望だけが心に蓄積されていく。

クロフヴァンテが魔剣を掲げた。

「絶望しろ、日本。お前達に神はいない」

魔戦将の絶望の宣言が風守に響き渡った。