46話
◆
「あっ……」
「くっ……」
「なんて……やつらなの」
魔軍の力を前に、体を震わせる風守の女達。
圧倒的な力、残忍極まる魔の在り方に恐怖する。
だが、
「守れ、風守の者達よ!」
その時響く声があった。
「天代様……!」
天代巫礼。虚神に代わり風守を治める古の姫巫女。、
虚神が「神風」なら彼女は「天津風」。
虚神の代理として風守を治める神秘。その力の存在がこの地獄にあって一縷の希望をつなぎ止める。
「今日本は絶望に瀕しておる! だがまだ終わりではない!!」
「天代様……」
「っ!?」
天代は草薙が消えた方向を見た。
(信じているぞ……長殿)
天代が掌を握りしめる。
「わしらには……日本には」
天代が継ぐ。
「虚神が……いる!」
天代が叫ぶ。
虚神を奉じているが故に虚神の強さを信じる。
「信じよ! 虚神がいる限り……日本を救う心がある限り神風は吹く!」
天代の言葉に風守の人間が
――虚神を信じる。
それが彼女達の信じる生き方だ。
大陸が攻めてきた戦いでは日本の民が戦ったからこそ神風は吹いた。
その歴史を風守の女達は知っている。
「虚神様のために!」
「日本のために!」
彼女達は己を鼓舞するように声を張り上げる。
恐怖はある、怖れもある。
だがそれを押し殺しても、彼女達は己の教えに殉ずる事を決意する。
「ここがわしらの決戦場じゃ!!」
月光溶ける銀麗の髪、透き通る瞳に宿すは反抗の意志。
天代巫礼が死戦場に立つ。
「風守の者よ!
戦え!!」
天代が、声をあげた。
「風守の者よ!
忠を尽くせ!!
「日本のために戦い!
虚神に命を捧げる!
我らは風守、日ノ本を守りし者!!
虚神の使命に殉じよ!」
天代が叫ぶ。唱えるのは虚神の信仰。
虚神への忠誠を叫ぶ言葉は虚神代理に相応しい。
絶望の中、一縷の希望がさす。
だが――
「――絶望を捧げよ」
瞬間、空間が爆ぜた。
◆
爆ぜる空間。
魔軍の中でも
強力な魔衝撃波が結界を震撼する。
「きゃあああっ!?」
強力な魔力攻撃に風守の守護者達が吹き飛んだ。
「うぅっ」
「くぅっ」
「あっ……」
受けたダメージに呻き悶える守護者達。
圧倒的な圧力、
「この力はいったい……」
魔物とは違う、一瞬でそう判断できる圧力。
強大な力の波動にアゲハ達は戦慄した。
「天代様っ!?」
天代の白磁の体から大量の血が流れていた。
強大な魔力波動が肌を灼く。
大量の血を流す、天代巫礼。
全身に裂傷が刻まれている。
その時――
「――絶望を捧げよ」
魔の箴言と共に四つの魔が降り立った。
「瞬間に結界を張ったか、天代巫礼。たいしたものだ」
隻眼の魔剣士は天代がやった事を見抜いていた。
風守の人間達に大ダメージを負わせる攻撃を防ぐために
命を削るほどの防壁をはり、自身の身を呈して守ったのだ。
「どうやら……虚神の悪い癖を真似てしまったようじゃの」
「ぁっ……」
早綾が言葉を失う。
ピチャ、ピチャと天代の体から血がたれおちる。
「天代……様?」
天代の全身からおびただしい血が出ている。
風守の救命のために払った代償は大きい。
「うろたえるでない! あの敵手に集中せよ!!」
天代はキッと敵手を見据えた。
予感はしていた準備もしていた。
だがやはり――強い。
「あの者ら……魔戦将じゃ!」
長き刻、ガルディゲンと戦ってきた天代巫礼は凶手の存在を知覚していた。
「クククッ」
「ガアアアア!!」
「フヒヒヒ」
「クカカカ」
あらわれた四魔族。
周囲の魔物とは次元が異なる驚異が具現していた。
「あっ……」
「あれは……」
守護者が恐怖の声をもらす。
圧力、魔力、そして凶気。
吸ってきた血の量が違う。
生み出した死の数が違う。
格が違うとこの場にいる全員が理解した。
「あれがっ」
守護者達に戦慄が駆け抜ける。
「……魔戦将!」
ガルディゲンの魔戦将。
一人で一軍を塵殺する力を有する者に与えられる称号。
その畏怖と恐怖が籠もった魔の神威は万人を恐怖させ圧する。
情報収集を得手とするくノ一達は彼等の存在を知っていた。
どれも高い魔力を有している強力な魔族である。
「魔戦将が……」
「四人……」
現風守の総力であたっても……勝てない。
そして――
「うっ……」
頭が割れそうなプレッシャー。
桁違いの力を有しているのが肌で理解できる、できてしまう。
◆
「日本人は全て殺す」
――魔戦将クロフヴァンテ
魔剣使い。
巨大な魔剣をもった、隻眼の魔戦将。
存在するだけで圧し潰さんばかりのプレッシャーを放つ。
隻眼の魔剣士が日の本の民を皆殺しにせんと、猛る。
◆
「日本人は全てぐらうううぅぅ!」
――魔戦将ザンカイ
一つ目の巨人。
巨大な体躯を持つサイクロプスの魔戦将。
◆
「日本人は全て嬲りますよぉ」
――魔戦将スパグナー。
魔鋼糸使い。
死臭のような陰気さを纏う魔戦将。
◆
「日本人は全て吸い尽くす」
――魔戦将マジハール
数百年を生きる血肉を貪った魔術士
毒と呪いを司る人間。
生きながら毒と呪いにむしばまれ、十の死を超える絶望感情を絞り出した後、
殺すという、処刑人を超えた悪質さを有する魔戦将。
◆
「危険です天代様、どうかお下がりください」
魔戦将を止めるべく日本を守る虚神の下僕、風守の守護者が魔戦将の前に立つ。
守護巫女の綾白。
守護くノ一の不知火。
守護くノ一の伽宮。
守護くノ一の御草の面々。
風守の守護者達は各々が守護配置についた。
その瞳に宿るのは覚悟と決意。
恐怖を押し殺し、この場を守るという決死の表情。
だが次瞬。
「――魔堕業」
魔剣が掲げられる。
クロフヴァンテが大剣を掲げた。
「堕ちろ!」
振り下ろされる魔大剣。
瞬間、地が爆ぜ、空間が激震する。
「きゃああぁぁっ!?」
「うわああぁぁぁっ!?」
クロフヴァンテが放った凄まじい衝撃に吹き飛ぶ風守の守護者たち。
クロフヴァンテの一撃が一瞬で、場を壊滅せしめたのだ。
クロフヴァンテの大剣の衝撃により
四方八方に散らばる、守護者達。
「さぁ、狩のはじまりだぁぁぁ!!」
絶望を捧げろ。
嘆き苦しみ墜ち果てよ。
誰一人逃がしはしない。
魔戦将――ガルディゲンの魔が牙をむく。