43話
明滅する天空。
震撼する大地。
草薙悠弥の蒼光とガルディゲンの紅光が凄絶にぶつかりあう。
「オオオオオオオォォオ!!」
草薙が力を振り絞る。
(守る!)
――守る、ここはやらせない。
蒼光が猛る。守るべきもののために風の神理が励起する。
「凄まじいな虚神」
紅の破壊光の源泉たる魔神は心から賛辞を送った。
魔神が鎮座するは魔軍の中枢。
現在日本で虐殺を行っている魔軍はこの座に繋がっている。
魔軍のリソースを使用している。これより魔軍の侵攻や戦力は減退し
数万の日本人の命を殺し損ねているがかまわない。
この虚神を塵殺する事に比べればその程度かまわない。
なぜならこの虚神こそ日本を守る者と、ガルディゲンは解していた。
「――貴様ほど国を愛した者はおらず」
葬送を謳う。それは敵ゆえに。
「――貴様ほど人を守った者もまたいない」
敵だからこそ、魔神は虚神の真実を知っている。
魔神は心からの賞賛を送った。
「虚神、貴様こそ日本の真の守護者だ」
故に――
「――終わりだ」
瞬間、膨れ上がる紅光。
魔の総軍はあまりにも強大。
魔の力を結集した破壊の光は草薙の蒼光を飲み込む。
鬩ぎ合う蒼と紅の均衡が崩れる。
紅の神気が極大まで膨れ上がり圧縮され、蒼を蹂躙する。
「ッツ!!」
破壊された蒼が紅に飲み込まれる。
圧倒的なガルディゲンの力が全てを圧倒する。
そして――
「ぐあああああああっっ!!!」
圧倒的な破壊光が草薙を飲み込んだ。
破壊光にのまれた草薙のシルエットが消え――
――ドゴオオオオォォ!!
激甚の破壊音が響き、草薙が真紅の光に消えた。
「長殿おおおおおぉぉ」
破壊光に消えた草薙に、天代が叫ぶ。
致命的な音が響いた。
真紅の光は草薙の滅殺に力を注いだいわんばかりに天に屹立し消失した。
結果、風守にいた人間の命は守られた。だが……
「今のは……」
葉月やアゲハは破壊光を一心に受けた影の方向を見ていた。
(あれはまさか……でも……)
わからない。
自分達の命は助かった。だが……。
「くさ、なぎ……」
「さま……」
葉月達の胸にあるのは致命的な何かを失ったような欠落だった
◆
だが時は戻らない。
「――終わりだよ虚神」
魔神の座から絶望が響く。
死刑宣告に等しき言葉が満天に響き渡る。
そうだよ虚神。
正義は報われず。
遺志は踏みにじられ。
想いは決して届かない。
魔神が嗤う。
「おめでとう蒼生の守護者
お前は数多の日本人の命を永らえさせた」
――全て死に絶えるがな。
「――クッ……ククッ」
魔天の玉座で魔神は嗤う。
「クハッ……ハハ」
駄目だ。
「ククククク、ハハハハッ……」
駄目だ駄目だ駄目だ。
「ハハハハハハハハハァァァァ!!」
止まらない止まらない止まらない止まらない止まらない。
狂喜は狂笑となり、天高らかに響き渡った。
魔神はガルディゲンの怨敵の滅びに狂喜する。
「あぁ最高だ、最高だよ虚神ィィィィィ!」
魔天を制するように手を広げる。
「この日本を!
日本を――真暦の神異を守り続けた貴様を!
滅ぼせた事がなによりもなああぁぁぁぁ!!
クヒッ、クヒヒヒヒ、ヒャーーーッハッハッハッハッハ!!」
天に轟く、魔神のレクイエム。
魔大国ガルディゲンの負の神威が日本を浸食していく。
「無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ」
魔神は嗤う。
「死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ」
防衛隊は塵殺された。
警察機構は腐り墜ちた。
政治は崩壊する。
――虚神は倒れた。
故に――
「日本人は死に絶える」
死を捧げよ。
「――風守は犯し墜とし捧げる」
絶望を捧げよ。
「絶望を、絶望を、絶望を!!」
決して誰一人も逃がしはしない。
「では――」
――地獄をはじめよう。