39話
◆
一億総殺。
絶対的な絶望があった。
力が違う。
規模が違う。
全てが――違う
放出される極大魔力。
月と見紛うばかりの「目」。
空前絶後のスケール。
巨大な絶望が形になったかのような負の神威が降り注ぐ。。
絶望存在から発せられる――殺意
殺す殺す殺す殺す。
一億皆死に絶えろと殺意の波動が止まらない。
「っつ!?……」
風守の人間が言葉を失った。
狂った箴言が響く度、極彩色に彩られた魔の神法陣が明滅し天空が軋む。
魔天に展開される殺戮の光景。
それを前に――
「――」
草薙悠弥は
「――ガルディゲェェェェンン!!」
世界の敵の名を呼ぶ。
彼の者はガルディゲン。
ガルディゲンの魔軍。
投射された映像は正しく阿鼻叫喚だった。
絶え間なく響く絶叫。
ぶちまけられ続ける血と臓腑。
血血血血血。
死死死死死。
都が燃えている。
人が死んでいる。
魔天に展開された絶望の光景に、数多の人間が絶望する。
魔軍の強大さは桁違いだった。
都にも強力な神理者はいる。
だがそれでも殺戮は止まらない。
魔軍の圧倒的な強さ。
魔軍の圧倒的なぶつ労。
魔軍の常軌を逸した残忍さ。
オオオオオォォォォォオオォォォ!!
魔軍のいななきが響く。
魔軍が人間を殺していく。
――死んだ。
――死んだ。
――死んだ。
――死んだ。
――死んだ。
死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ。
積み上がる屍、屍、屍、屍。
産み出される死は万を超える。
「あああぁぁぁぁっ!?」
限界だった。
悲惨極まる光景に風守の人間が発狂したように絶叫する。
「こんな……こんなのって……」
凄惨極まる光景に感情が麻痺したように呆然となる。
「なんて……」
「ひどい……」
精神を食い散らす絶望異景に戦慄する風守の者達。
天に映し出された日本の都。
ガルディゲンによって作られし死山血河。
「何人……」
空を見上げた風守の守護者が絶望を吐いた
「……何人死んでいるの?」
数えきれないのだ。
認識するのを脳が拒否するほどの数。
おびただしい数の――死体。
子供がいた大人がいた女がいた男がいた老人がいた。
「げほっ……おええぇ」
「ああああぁっ!!」
誰かが叫んだ。あまりに酸鼻な光景に心と体が耐えられない。
彼女達とて影に生きる者だ。血や死への耐性はある。
だがそれでも耐えられない、耐えられなどしない。
天に映された光景にはありとあらゆる方法で人間が殺されていた。
斬殺。
絞殺。
圧殺。
轢殺。
殴殺。
撲殺
焼殺。
毒殺。
撃殺。
刺殺。
銃殺。
爆殺。
磔殺。
殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺。
ありとあらゆる方法で殺されていく無辜の民。
絶望がそこにある。
残酷というにも足りない鬼畜外道の所行。
――死にたくないと、数多の人間叫んでる。
生物として原始的な衝動はどこまでも単純で。
故にその叫びには真実の響きがあった。
◆
「あっ、あっ、あっ……」
風守の者が絶望する。
◆
数多の守護者が絶望する
人が、日本人達がここまで残酷に殺されている事を。
人間が喰われ、音程外れの断末魔が響き渡る。
血が川のように流れ、断末魔が生活音のように流れる。
余りに残酷。
余りに非道。
圧倒的な暴力に晒された無辜の日本人が
抱く想いは単純なものだった。
「ぎゃあああああああ」
「助けてっ!! 助けてえええぇ!!」
絶望。
人語を絶する地獄の光景。
圧倒的な力による虐殺だった。
「――」
草薙悠弥は想う。
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神異を消せばガルディゲンもリュシオンもこの日本を攻める根本をなくなる。
そう考えた時もあった。
――聖なるかな。
聖国の声が響く。
――邪悪なるかな
魔国の声が響く。
虐殺が続く。
(ああ……)
理解する。
やはりだ。
関係ないのだ。
根本的に――違う。
――和解は不可能。
――理解は不可能。
合理的解決もありえない。
平和的解決もありえない。
それは殺戮の現実が何よりも雄弁に証明している。
「あぁっ……」
少女が絶望する。
魔軍の圧倒的な強さに絶望が止まらない
「うぅっ……」
少女が恐怖する。
魔軍の恐ろしい残忍さに恐怖が止まらない
絶望と恐怖が日本を支配する。
その中で――
「――」
激しい怒りがあった。
絶望に非ず。
恐怖に非ず。
それは怒り。
――滅ぼす。
討滅の意志が神理を紡ぐ。
――ゼザアアアアァァァァ
瞬間、ここに極大の嵐が顕現がする。
悪意が殺意が殺戮が跋扈する日本で。
恐怖と絶望が侵食する日本で。
草薙悠弥にあるのは
「――」
怒りだった。
絶望に非ず。
恐怖に非ず。
諦観に非ず。
怒り――討滅の意志。
草薙悠弥は決断する。
「――国敵討滅」
どんなに絶対的な実力差があろうと関係ない。
国敵討滅――蒼生守護。
草薙悠弥が――立つ。