38話
――ガルディゲン。
魔大国の名を冠する存在。
数多の人間を殺し、数多の国を滅ぼした
その枢要たる存在が、天に座していた。
「――――」
魔が蠢いていた。
星をも喰らい、三千世界を破壊する魔性の暗黒天体。
目だけで月と見まごうばかりの巨大さ。
「あり得ない」
馬鹿じゃないか、狂っているというスケール感。
悪魔などという規模ではない。
「魔神……」
圧倒的な力は魔族の上位存在たる魔の神を彷彿させる。
「いえ……」
強すぎる。
空前にして絶後。
魔神の強大さは理解している。
だがそれでも……それでも……
「大きすぎる…………」
力の桁が違いすぎる。
存在を知覚するだけで絶望が肉体を侵食してくる。
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。
あまりにも強大。それでも
なお膨れ上がる魔の神威。
「あれは……まさか……」
◆
「太陽が……」
――太陽が犯されている。
どす黒く染まりあがる太陽。
太陽を犯す暗黒天体、風守の上空で廻り明滅する神の法陣。
「あれは……」
あまねくの宗教全て入り交じったかのように、神の境なき紋様。
――だが決定的に何かがズレている。
あまねく宗教が持つおぞましい部分だけを抽出たような。
災厄を何千倍にも圧縮し、おぞましい腐汁で煮詰めたような。
人間の恐怖を喚起させるものがあった。
◆
魔から幾度もの神言が紡ぎだされる。
空が激震する。
◆
「――死に絶えろ」
悪意に満ちた箴言が響き瞬間――
「!!」
「!?」
満天に絶望が広がる。
天に映し出された絶望の光景。
人が死ぬ人が死ぬ人が死ぬ人が死ぬ。
死死死死死死死死死死死死死死死死死死。
魔が食らう。人を食らう。
魔が何十の人間を焼き払う。
魔が何百の人間を喰い殺す。
魔が何千の人間を切断する。
絶望が日本中を覆っていた。
日本に侵攻した魔大国ガルディゲン。
凄まじい暴力が日本を蹂躙する。
万を超える人間が殺されている。
「一億総殺」」
魔が宣言する。
そして破壊の映像がうつしだされた。
「うっ……」
「あぁっ」
瞬間、共有されるイメージ
風守の女達が呻く。
天に数多映し出される光景。
魔神の強大な力の証左である。
「あれはっ!?」
映し出されたのは日本の都。
そして、日本の守護を司る機関だった。
だが――
「あっ……」
そこに広がるのは絶望の光景。
ソレを表すのは只一言。
――死んでいる。
ソレを表すのは只一言。
――終わっている。
「あっ……」
「あっ……」
「あっ……」
その光景は絶望だった。
男が殺されていた。
女が殺されていた。
大人が殺されていた。
子供が殺されていた。
若者が殺されていた。
老人が殺されていた。
人が機能がその場所が、全てが死に絶えていた。
埋め尽くされる死の連鎖。
――地獄。
全きの地獄。
死に溢れ血が流れるその場所は地獄に他ならない。
◆
地獄が地獄が地獄が地獄がひたすら繰り返される。
◆
空を埋め尽くす存在があった。
空から降りるのは絶望だった。
空が動く。
否、空ではない。
ソレは空から来襲せし万魔軍。
黒い空と見紛うばかりの魔の大群だ。
黒き空が動き出したのだ。
ソレは絶望的に残虐で。
ソレは絶望的に容赦なく。
――虐殺を行う。
逃げまとう日本人を殺し
防衛隊を引き潰し、殺戮を敢行する魔の軍勢。
抵抗する事もできずに、魔族や魔物から貪り喰われてるむこの人々。
一億総殺。
魔軍から放たれる極大殺気。
全て殺す。
この日本の人間を全て。
赤子を殺す。
子供を殺す。
老人を殺す。
若者を殺す。
男を殺す。
女を殺す。
断末魔が響き、血がぶちまけられる
生み出されていく死と絶望。
無辜の民の血と絶望と死を浴びた
万魔軍の勢いは増すばかりだった。
血肉を贄とし、絶望を糧とする。
万魔軍の殺戮進撃は止まらない
全て全て全てを殺す。
◆
殺戮の進撃を続ける絶滅魔軍。
死をふりまく破壊の凶星が日本に進撃する。
そして魔神の絶望の宣言が日本に響く。
――絶望しろ日本。この国に神はいない。