37話
◆
――ドクン
瞬間、草薙は目覚めた。
「っ!?」
目の前には――創世神器。
(戻って……きた)
クリストフ・トゥルーの界から戻った。クリストフが見せた光景、クリストフの言葉を思い出す。
――日本は滅びる
「っ!?」
全身が沸騰するように熱い。
「あ゛」
憤怒、苦悶、覚悟。
体を駆け巡る激情を草薙は抑えた。
――光あれ。
聖典に記された神言。
そして界を創造した圧倒的な力。だが……
(あれは……力の一端に過ぎない)
そして――
(神がくる)
――リュシオン。
クリストフ・トゥルーの陣営。
圧倒的な力を有する神の軍勢。
あの最強を誇った帝国時代の日本を焼け野原にした――神聖の国家。
(あぁっ……)
そして……
(魔がくる……)。
魔大国ガルディゲン。
最恐最悪の魔族の国。
草薙悠弥は知っている。
そのために彼は戦ってきたのだ。
「…………」
クリストフ・トゥルーがいった言葉。
――魔がくる。
それが真実な事を草薙悠弥は知っている。
(やつらがくる……)
覚悟はしていた。
その為に戦ってきた。
だが――
(敵は絶大だ)
強すぎる、あまりにも。
敵はあまりにも規格外。
草薙悠弥は強い。
だがそれでも……それでもなのだ。
(クリストフ・トゥルー)
リュシオン。
(っ!?)
胸を焦がす激情。
自壊衝動じみた怒りが全身を灼く。
そして――
「ッ」
ドクン。
全身が凍るような殺気。
――魔がくる、その言葉が頭に響く。
魔、それは彼の魔大国――ガルディゲン。
(くる)
――ドクン
総身に衝撃がはしった。
「これ、は」
圧倒的なプレッシャーが空間を圧倒する。
神がくる。
そして――魔がくる。
魔がくる。
魔がくる。
魔がくる。
魔がくる。
魔がくる。
全てを犯し破壊する、魔の波動がソレは来襲する。
◆
「っ!?」
◆
「あっ!?」
◆
「あれはっ!?」
◆
「っ!?」
◆
「ついに」
◆
「来たか」
◆
「来たね」
◆
「始まる」
◆
「終わりの時が」
◆
数多の人間が天を見る。
現出する極大異変。
計測不能の暴威が空に顕現していた。
空がどす黒く、そして紅く染め上げられている。
長年血を吸い続けてきたかのような赤黒い空がギラギラと輝いた。
◆
風守の守護者達が魔天を見上げる。
「っ!?」
「あっ」
「うっ」
感じるのは圧倒的な恐怖と圧力。
天堕を呼ぶ大魔力が全空を支配する。
息が止まる。
胸が圧迫される。
気が狂いそうになる。
空が堕ちてくるような圧倒的な威圧感。
終わりのラッパを吹き鳴らすように、ソレは来襲する。
来る、来る、来る。
力ある者も。
力なき者も。
男も女も子供も老人も。
日本に住む全ての者達が死を予感した。
――来る。
――来る。
――来る。
魔ガ――クル。
◆
「――日本一億全て死に絶えろ」
呪いが響く。
魔神の声が響きわたった。
殺す滅ぼす、一人たりとも逃がさない。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
極大の呪詛が日本全土に響き渡る。
押し寄せる敵意悪意殺意殺意殺意殺意。
押し寄せる敵意悪意殺意殺意殺意殺意
押し寄せる敵意悪意殺意殺意殺意殺意
押し寄せる敵意悪意殺意殺意殺意殺意
押し寄せる敵意悪意殺意殺意殺意殺意
押し寄せる敵意悪意殺意殺意殺意殺意
魔大国が――来る。
◆
「ッツ」
風守の巫女、くノ一が絶句する。
生物としての本能が理解する。
――殺される。尊厳も何もなく一方的に残酷に
魂から理解してしまう。
空に広がるのは絶対の絶望だと。
◆
「あれは……」
天に異界が蠢く。
天に描かれる複雑極まる幾何学模様。
それは巨大な天の神法陣。
神、魔神の法陣だ。
魔法陣を歪め狂わせた上で極大の悪性を付与されている。
そして鎮座する月かな放たれる――極大の悪性。
「なんで……」
くノ一達から、恐怖の声が漏れた。
「なんで月が二つあるの!!」
天に浮かんだ月。
宙空に浮かぶのは月と並ぶ巨大な天体だった。
「違う! あれは月じゃないわ!!」
それは月というには生々しすぎた。
それは月というには凶悪すぎた。
それは――目だ。
月と見紛うばかりの巨大な目が、人間達を見下ろしているのだ。
「ひっ」
その存在を知覚した時、魂が恐怖した。
地獄のマグマの如き負の神性を放出する暗黒天体。
あまりにも巨大な力の波動。
それが意味している事は一つ。
――絶対存在。
超巨大というにも生易しい。
桁違いの神性。
桁違いの質量。
桁違いの規模。
目だけで月と見紛うばかりの規模感は力の桁が違いすぎるのは
明らかだった。
「「うぅっ!」」
「「あっ……あっ……あっ……」」
風守の守護者達は恐怖のあまり声もでない。
あまねく民を絶望に叩き落す負の星だった。
国喰い。
三千世界を滅ぼす魔神皇。
極大の魔がいた。
魔がくる。魔がくる。魔がくる。
絶望が――くる。