第25話エクストラ 災厄の感知
――風守神社、法神殿。
「風が――」
風が吹いていた。
そこまでは理解できた。
「あっ……」
感応。綾波達の体に風がはしった様な感覚。
そして、信じられない異変を感知した
「なっ!?」
強き凶の気配が――消えた。
「なんでっ」
理解できないわからない。
異常極まる事象に綾波も那智、巫女達は驚愕した。
百災の獣の凶の気配が風に薙ぎはらわれたように消えたのだ。
「今……何がっ……」
何度も確認する。
だが結果は同じだった。
魔獣の気配の消失。
「……魔獣が……」
「災厄の魔獣が……消滅」
あり得ない事だ。
災厄の百獣。
その凶の気配が消えた。
「どういう事……」
呆然とした綾波の呟き。
災厄の百獣。
その気配が消えたのだ。
「魔獣が……死んだ」
綾波は呟いた。
それは外敵に脅かされていた人間が、突然の風によって救われた心境だった。
まるで嵐が自分達を脅かしていた外敵の船が沈めたような。
「いったい誰が……倒したというの」
理解できない。
まるで風が吹いたように彼女達に迫っていたはずの死の運命はかき消えた。
それによって救われた。
彼女達の胸には不思議な感慨めいたものがあった。
(もしかして……あの方が……)
思い浮かべるのは一人の旅人の姿だった。
彼女達がそう感じたのは
似ていたからだ。
自分達が奉じる神に。
危機を救う風。
それは自分達が奉じる神の姿を感じさせた。
(まるで……)
自分達が奉じるものが風を吹かせた
(あぁっ……)
ほぅっと守護者達は息を吐いた。
彼女達の心に安心と虚脱感があった。
自分達が魔獣を倒しにいかなければならなかった。
だがそうなれば恐らく自分達は死んでいた。
(やはりこれは……)
「虚神様が……」
助けてくれた。
そう感じた、そう信じたいと、風守の守護者達は感じた。
「……風が……吹きますね」
風守の神域に、守護者達の言葉が響いた。
だが――
「周囲を警戒してください」
守護者達は気を引き締める。
「認めたくはありませんが……災厄の魔獣は
ガルディゲンにとってはまだ……余興のようなものかもしれません」
「まだまだ油断はできない、ですね」
「……はい」
本能が教えていた。
自分達が依然として危機にあるという事を。
震える手。おぞけはしる総身。
災厄の獸は消えた。
嵐に消し去られた様に。
災厄の獣が死んだという奇妙な確信があった。
だが同時に思う。
(本命が……くる)
予想されていた破滅。
だが迫りつつあった危機を薙ぎはらった風に、彼女達は既視感を覚えていた。
「……虚神様」
希求するように風守の守護者である彼女は手を組んだ。
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