71話

悠久ノ風 第71話

71話 


「――国敵討滅」

草薙悠弥は世界に向けて宣言する。

「――俺の国民に手を出すな」

「!!」

「!!」

「!!」

瞬間、日本全土に声が響いた。

生存本能を揺るがすような殺気と敵意に満ちた大音声が響き渡る。
――ピタリ、と

魔物達の動きが停止する。

「聞け、魔軍よ!」

「お前達の総司令は……虚神が滅ぼした!!」

衝撃的な言葉を紡いだ。

「やったか……やりおったか!!」

「やはり……狂っている」

「ありえん……」

「はっハハハハハハハハハハハ!!
おいおいじマジかよ!やったかやりやがったか?
この状況で!? 国が滅びるしかねぇこの状況で?
大将首をとりやがったのかよ!?」

「…………」

「魔の中枢は……この虚神が握っている。
貴様らの記録も全部だ」

「!!!!!」

その言葉に魔軍が戦慄する。
そしてリュシオンが慄然とする。

今や天は草薙悠弥が握っていた。
だがそれはあくまで仮初め。

百万の魔軍、そしてリュシオンの神軍が狙っている。
その中で草薙悠弥は単身一人軍隊。
満身創痍、風前の灯火というにも生やさしい。
だが――

「俺の国民に手を出すな」

確かな意志で草薙は魔と神に喧嘩を売る。

多くの罪なき日本人が殺される。
そんな事を、草薙悠弥は許さない。

「ガッ、ガガガガガ!!」

魔物達がいななく。

天の座から流出する国敵討滅の殺意。
天の座から吹き荒れる風が、魔族魔物達の生存本能に警鐘を鳴らした。

奴は駄目だ。国敵を殺す絶対的な存在。
魔物を突き動かしたのは只一つ。
生物として最も上位にあるもの――生存本能だった。

(――殺される)

虚神は国敵といった。
虚神の国敵を滅ぼすという言葉は真の響きが宿っていた。

「GGGGGG」
「アイツは……クサナギは…………」

奴はやる。国敵は絶対殺す。

それは真の歴史が証明している。
真実、虚神は何度もその言葉を紡ぎ、何度も国敵を滅ぼしてきたのだから。

虚神の国敵討滅の言葉が歴史が真実が。
日本中で凶行をふるう魔物の動きを停止させた。

「ガ、ガガガガガガ……」

壊れた機械のように魔物達が停止する。

「えっ……」
「な、なんだ」
「これ、は……」

襲われていた日本国民達は一様に驚愕した。

今まで何をしても止まらなかった魔物達。

それが急に止まった。

絶望が停止する。
殺戮が止まる。

(殺戮が止まったか……)

これは一時的なものに過ぎない。
天に映るは虐殺の光景。
専守防衛の限界。いくら守っても殺される。
これから日本を守るためには――

(これからだ……)

全てがここから始まると――宣言する。

「――リュシオン」

草薙悠弥が神の国の名を紡ぐ。

「…………」

「――ガルディゲン」

草薙悠弥が魔の国の名を紡ぐ。

「…………」

草薙の言葉には凄絶な響きがあった。

底なしの虚無の中に、極大の怒りと誠心が混ざっているかのような
あり得ない響き。

「…………」

無惨に死んだ数々の人間達の姿が見える。
神風が吹かなければ、死んだ人間は何倍にもなっていただろう。
百万以上の民間人が――死んだのだ。
そして、これからも魔と神は日本人を殺すだろう。
故に

「――お前達を滅ぼす」

草薙悠弥は宣戦する。

「虚神が宣戦する。
国敵の討滅を!
蒼生の守護を!」

しかして、草薙は吠えた。

滅びの道を往く。

「――戦争だ」