71話
「――国敵討滅」
草薙悠弥は世界に向けて宣言する。
「――俺の国民に手を出すな」
◆
「!!」
◆
「!!」
◆
「!!」
瞬間、日本全土に声が響いた。
生存本能を揺るがすような殺気と敵意に満ちた大音声が響き渡る。
――ピタリ、と
魔物達の動きが停止する。
「聞け、魔軍よ!」
「お前達の総司令は……虚神が滅ぼした!!」
衝撃的な言葉を紡いだ。
◆
「やったか……やりおったか!!」
◆
「やはり……狂っている」
◆
「ありえん……」
◆
「はっハハハハハハハハハハハ!!
おいおいじマジかよ!やったかやりやがったか?
この状況で!? 国が滅びるしかねぇこの状況で?
大将首をとりやがったのかよ!?」
◆
「…………」
◆
「魔の中枢は……この虚神が握っている。
貴様らの記録も全部だ」
「!!!!!」
その言葉に魔軍が戦慄する。
そしてリュシオンが慄然とする。
今や天は草薙悠弥が握っていた。
だがそれはあくまで仮初め。
百万の魔軍、そしてリュシオンの神軍が狙っている。
その中で草薙悠弥は単身一人軍隊。
満身創痍、風前の灯火というにも生やさしい。
だが――
「俺の国民に手を出すな」
確かな意志で草薙は魔と神に喧嘩を売る。
多くの罪なき日本人が殺される。
そんな事を、草薙悠弥は許さない。
「ガッ、ガガガガガ!!」
魔物達がいななく。
天の座から流出する国敵討滅の殺意。
天の座から吹き荒れる風が、魔族魔物達の生存本能に警鐘を鳴らした。
奴は駄目だ。国敵を殺す絶対的な存在。
魔物を突き動かしたのは只一つ。
生物として最も上位にあるもの――生存本能だった。
(――殺される)
虚神は国敵といった。
虚神の国敵を滅ぼすという言葉は真の響きが宿っていた。
「GGGGGG」
「アイツは……クサナギは…………」
奴はやる。国敵は絶対殺す。
それは真の歴史が証明している。
真実、虚神は何度もその言葉を紡ぎ、何度も国敵を滅ぼしてきたのだから。
虚神の国敵討滅の言葉が歴史が真実が。
日本中で凶行をふるう魔物の動きを停止させた。
「ガ、ガガガガガガ……」
壊れた機械のように魔物達が停止する。
「えっ……」
「な、なんだ」
「これ、は……」
襲われていた日本国民達は一様に驚愕した。
今まで何をしても止まらなかった魔物達。
それが急に止まった。
絶望が停止する。
殺戮が止まる。
(殺戮が止まったか……)
これは一時的なものに過ぎない。
天に映るは虐殺の光景。
専守防衛の限界。いくら守っても殺される。
これから日本を守るためには――
(これからだ……)
全てがここから始まると――宣言する。
「――リュシオン」
草薙悠弥が神の国の名を紡ぐ。
◆
「…………」
◆
「――ガルディゲン」
草薙悠弥が魔の国の名を紡ぐ。
◆
「…………」
◆
草薙の言葉には凄絶な響きがあった。
底なしの虚無の中に、極大の怒りと誠心が混ざっているかのような
あり得ない響き。
「…………」
無惨に死んだ数々の人間達の姿が見える。
神風が吹かなければ、死んだ人間は何倍にもなっていただろう。
百万以上の民間人が――死んだのだ。
そして、これからも魔と神は日本人を殺すだろう。
故に
「――お前達を滅ぼす」
草薙悠弥は宣戦する。
「虚神が宣戦する。
国敵の討滅を!
蒼生の守護を!」
しかして、草薙は吠えた。
滅びの道を往く。
「――戦争だ」