47話
――蒼は沈んでいた。
魔神の攻撃。
莫大な消耗。
そして圧倒的な魔の攻撃。
それを
光は剣の形をしていた。
――日本人が苦しんでいるからだ。
只、狂気だった
創世神器が光を帯びる。
俺は……
――零生
過去の記憶。
久世零生。
虚神。
◆
「零生様……だめでした……俺は凡人でした……何の戦果も残せず……
誰も助けられず……ここで死ぬだけの……なさけない……只の……」
一人の日本人が絶望していた。
「違う」
――俺は只の日本人だ。
「零生様」
――只の日本人である俺の活躍は、日本人たるお前の活躍。
「なっ……」
――只の日本人たる俺が人を助ければお前も人を助けた事になる。
「なにを……いってるんですか」
――志半ばで倒れても悲しむ事はない。
虚神は手を握った。
まっすぐに。その男の目を見る。
――国敵は滅ぼす。蒼生は俺が助ける。誰にも異は挟ません。
――故にお前は英雄だ。誰にも異は挟ません。
「はっ……ははっ……」
死にゆく人間が笑った。
「幻想ですよ……それは…………。
自分と虚神様は違い……すぎます」
「同じなのはせいぜい……本当に……日本人というだけ……
それが……なんだっていうんですか……そんな共通点なんて……一割……いや
せいぜいが……百分の一でしかないでしょう」
「それもまた良し」
「えっ!?」
「俺が百の命を助ければ……お前は一の命を助けた事になる。
俺が千の命を助ければ……お前は十の命を助けた事になる。
俺が万の命を助ければ……お前は百の命を助けた事になる」
虚神は死にゆく日本人の手を強く握った。
「お前の想いは俺が受け取る。
俺は無道だ。拒否しようと知った事ではない。
俺が貴様の魂を英霊へ導いてやる」
絶望のまま死なせはしない。
虚神は死にゆく日本人の目をまっすぐ見た。
「はは……はっ……ははっ……」
死にゆく男の顔には……微かで……
「滅茶苦茶です……滅茶苦茶」
――確かな希望があった。
「優しすぎますよ貴方は……でも……あぁ……」
男の手に熱が宿る。
「お前は俺の国民だ……だから……安心しろ」
虚神の目が告げている。
虚神はこれからも戦い続ける。
虚神はこれからも人々を助け続ける。
それは歴史に裏付けられた真実。
――神風として……
「そんな虚構なら……あぁ……それなら…………それも……また……」
そこで男の言葉は途切れた。
残ったのは、男の想いを受け取った
絶望に満ちていた男の顔には微かな希望が宿っていた。
死は残酷。
死は無惨。
肉は腐り骨となる。
お前の死は無駄にしない。
只の日本人たる虚神の活躍は只の日本人たるお前の活躍。
俺が助ければお前もまた助ける。
虚構であろう。
幻想であろう。
だが――
「その幻想を真にしてみせる」
その虚構を真実にしてみせよう。
すがるものが幻想しかないのなら。
希望が虚構でしかないのなら
「――それもまた良し」
俺の国民を守れるなら……俺は過酷な現実を戦い続ける。
「只の日本人よ。お前は英雄だ」
故に――
「俺がこの国を守る」
◆
「俺が…………」
草薙悠弥は言葉を紡ぐ。
声が聞こえた。
◆
――助けて
今現在の声。
――助けて
――誰か
絶望の声だ。
助けを呼ぶ声だ。
ガルディゲンの魔軍によって蹂躙される日本。
多くの人間が傷つけられ殺されている。
一億総殺、その狂気が全土を圧していた。
◆
「!!」
草薙悠弥は立ち上がる。
「まだ……」
今この瞬間も苦しんでいる人間がいる。
蒼生守護。
――あっ……ああぁぁぁぁぁぁ
【死ぬ】
【死ぬ】
【死ぬ】
頭に浮かぶ選択。
それ以外にあり得ないほどのダメージ。
だが――
「――まだだ!」
負けられない。
ここで倒れたら多くの日本人が死ぬ
それは只の事実だ
草薙悠弥が倒れると多くの日本人が死ぬ
そして、風守の女達は凌辱と絶望の末の最悪の終わりを迎えてしまうだろう。
そのような絶望をもたらす国敵を――
(滅ぼす……)
それが草薙悠弥の理なのだから。
血を吐き意識を覚醒させる。
決意の不退転。
蒼生守護の理。草薙悠弥は負けられない。
幾多の想いがあるのだ。
「――負けられない」
それはさながら大和魂というべきものか。
否、草薙はそれをも超越した想いで動いていた。
「――あっああああああらああああぁぁぁぁぁぁ!!!
神風無道。
血を吐く、怒りと共に立ち上がる。
(――これからだ)
甚大なダメージ?
剣が呼んでいた。
草薙は剣に手を伸ばす。
(蒼生――)
創世神器。
(――守護)
伝説の反神。
草薙悠弥。
(国敵――)
久世零生。
(――討滅)
虚神。
太陽に堕ちていく