42話

悠久ノ風 第42話

42話 

――百万。

魔軍の絶望が響く。

百万の魔軍勢。

それは只人の億の軍勢を凌駕する脅威だった。

息を飲む風守の守護者達。

「さぁ祈れ、神に祈れ。
祈れ祈れ魂に刻み込めるのだ」

魔神が宣言する。

「貴様らを助ける神など存在しない事を」

瞬間、天魔の城が赤黒く光った。
万の死と絶望を凝縮したような禍々しい光が空を犯す。

――パリン

致命的な音が鳴り響いた。

守護結界が砕け散る。

――絶望が顕現していた。
「死ね、死ね、死ね、死ね」

殺意と絶望の波濤が濁流の如く押し寄せる。
魔の軍勢が押し寄せる。

北は北海、南は九州。

日本を囲むように魔軍が押し寄せる。


「あの光はッ!?」

風守の女達は光を見上げた。

風守から放出された超弩級の神撃。
そしてその神撃を受けて狂った様に笑う魔神。

共に超絶。
共に絶世。

尋常ではない。

(あの神撃を撃った者は……)
神撃に風守の者達が何かを感じた。
しかし――

瞬間、天の魔神が震える。

「!!」

魔神の暴性が迸る。
魔神の座が起動する。

「一時的に虐殺リソースを停止させる」

魔神の暴性が、ガルディゲンの
魔物への魔力供給を停止させる。

「――十パーセント」

魔神から放たれる力は規格外

日本への侵攻に膨大な影響を与えるだろう。
だが殺す、あの無道は殺し尽くす

ガルディゲンの魔神は虚神を滅するべく魔力リソースを注いだ。

だがそれでも魔神の座は止まらない。

(危険だ虚神。一億総殺を遅らしてでも、貴様はここで殺す)

天が震え、地が軋む。

「――メメント・モリ」

死を、死を、死を

数多の死を生み出す絶望のカタルシス

天魔から光が煌めいた。

「紅神」
極大の破壊光が煌めいた。

現界した破壊光。
魔神の座から光が放たれる。


「なっ!?」

葉月は見た。

魔天から飛来する恐ろしい破壊光を。

「あれは!?」

エリミナの総身の感覚が消失する。

絶対的な死の恐怖が押し寄せてくる。

「ッツ」

アゲハは言葉を失う。

一目で理解する。
――どうしようもないと。

ガルディゲンの魔神が放つ圧倒的な破壊の光。
極大という言葉すら生ぬるい圧倒的な魔の神威が心を恐怖で塗りつぶす。
絶対的な力を前に、風守の女達は無力だった。

全てを飲み込まんとするガルディゲンの破壊光。
葉月やアゲハ、エリミナが、風守のくノ一が、守護の巫女が為す術もない。

しかし――

「はあああああぁぁぁっつ!!」

一陣の風が吹いた。
――草薙悠弥。
迸る神理。
漲る戦気。

草薙は満身創痍。
先ほど放った神撃で莫大な理力を消費した
今の草薙に殆ど力は残っていない。
だが――

(――根性だ)
大和魂という次元ではない。
爆撃を竹槍で撃ち落とすが如く不条理。

知らん殺すぞ関係ない。

守ると決めた滅ぼすと決意した。
ならば後は――

「おおおおおおぉぉぉ!!」

やるだけだ。

草薙が飛翔。
風守の上空に陣取る。

(迎え撃つ……!)

決意の不退転。
風守に迫る魔神の光。
風守を襲う破壊光を迎え撃つために。

(破壊光!!)

瞬間、赤熱する天。
破壊光が――来た。

「――おおおおおおぉぉぉ!!」

総身から力を振り絞る。

紡がれる神理。

蒼の風が湧出する。

――蒼生守護

宿願が神理を紡いだ。

「はあああぁぁっ!!」

撃ち放たれる蒼光の嵐

蒼の風が赤の破壊光と衝突。

――――――――

明滅。そして――

ズガアアアアアアァァァァァン!!

――激烈な音が響き、天が明滅する。

「きゃあああぁぁっ!?」

風守の巫女やくノ一達が声をあげた。
蒼と赤の光の衝突によって発せられたと衝撃は女達に大きな衝撃を与えた。

鬩ぎ合う蒼と紅。

蒼生を守らんとする意志と、蒼生を破壊せんとする悪意がぶつかり合う。