37話

悠久ノ風 第37話

37話 


――ドクン

瞬間、草薙は目覚めた。

「っ!?」

目の前には――創世神器。

(戻って……きた)

クリストフ・トゥルーの界から戻った。クリストフが見せた光景、クリストフの言葉を思い出す。

――日本は滅びる

「っ!?」
全身が沸騰するように熱い。

「あ゛」

憤怒、苦悶、覚悟。
体を駆け巡る激情を草薙は抑えた。

――光あれ。

聖典に記された神言。

そして界を創造した圧倒的な力。だが……

(あれは……力の一端に過ぎない)

そして――
(神がくる)
――リュシオン。

クリストフ・トゥルーの陣営。
圧倒的な力を有する神の軍勢。

あの最強を誇った帝国時代の日本を焼け野原にした――神聖の国家。

(あぁっ……)

そして……

(魔がくる……)。

魔大国ガルディゲン。
最恐最悪の魔族の国。

草薙悠弥は知っている。
そのために彼は戦ってきたのだ。

「…………」

クリストフ・トゥルーがいった言葉。

――魔がくる。
それが真実な事を草薙悠弥は知っている。

(やつらがくる……)

覚悟はしていた。

その為に戦ってきた。
だが――

(敵は絶大だ)

強すぎる、あまりにも。
敵はあまりにも規格外。
草薙悠弥は強い。
だがそれでも……それでもなのだ。
(クリストフ・トゥルー)

リュシオン。
(っ!?)
胸を焦がす激情。
自壊衝動じみた怒りが全身を灼く。

そして――

「ッ」

ドクン。

全身が凍るような殺気。

――魔がくる、その言葉が頭に響く。
魔、それは彼の魔大国――ガルディゲン。

(くる)

――ドクン

総身に衝撃がはしった。

「これ、は」

圧倒的なプレッシャーが空間を圧倒する。

神がくる。
そして――魔がくる。

魔がくる。
魔がくる。
魔がくる。
魔がくる。
魔がくる。

全てを犯し破壊する、魔の波動がソレは来襲する。

「っ!?」

「あっ!?」

「あれはっ!?」

「っ!?」

「ついに」

「来たか」

「来たね」

「始まる」

「終わりの時が」


数多の人間が天を見る。

現出する極大異変。
計測不能の暴威が空に顕現していた。

空がどす黒く、そして紅く染め上げられている。

長年血を吸い続けてきたかのような赤黒い空がギラギラと輝いた。

風守の守護者達が魔天を見上げる。

「っ!?」

「あっ」

「うっ」

感じるのは圧倒的な恐怖と圧力。
天堕を呼ぶ大魔力が全空を支配する。

息が止まる。
胸が圧迫される。
気が狂いそうになる。

空が堕ちてくるような圧倒的な威圧感。

終わりのラッパを吹き鳴らすように、ソレは来襲する。

来る、来る、来る。

力ある者も。
力なき者も。
男も女も子供も老人も。
日本に住む全ての者達が死を予感した。

――来る。
――来る。
――来る。
魔ガ――クル。

「――日本一億全て死に絶えろ」

呪いが響く。
魔神の声が響きわたった。
殺す滅ぼす、一人たりとも逃がさない。

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

極大の呪詛が日本全土に響き渡る。

押し寄せる敵意悪意殺意殺意殺意殺意。
押し寄せる敵意悪意殺意殺意殺意殺意
押し寄せる敵意悪意殺意殺意殺意殺意
押し寄せる敵意悪意殺意殺意殺意殺意
押し寄せる敵意悪意殺意殺意殺意殺意
押し寄せる敵意悪意殺意殺意殺意殺意

魔大国が――来る。


「ッツ」

風守の巫女、くノ一が絶句する。

生物としての本能が理解する。
――殺される。尊厳も何もなく一方的に残酷に

魂から理解してしまう。
空に広がるのは絶対の絶望だと。

「あれは……」

天に異界が蠢く。
天に描かれる複雑極まる幾何学模様。

それは巨大な天の神法陣。
神、魔神の法陣だ。
魔法陣を歪め狂わせた上で極大の悪性を付与されている。
そして鎮座する月かな放たれる――極大の悪性。

「なんで……」

くノ一達から、恐怖の声が漏れた。

「なんで月が二つあるの!!」

天に浮かんだ月。
宙空に浮かぶのは月と並ぶ巨大な天体だった。

「違う! あれは月じゃないわ!!」

それは月というには生々しすぎた。
それは月というには凶悪すぎた。
それは――目だ。

月と見紛うばかりの巨大な目が、人間達を見下ろしているのだ。

「ひっ」

その存在を知覚した時、魂が恐怖した。

地獄のマグマの如き負の神性を放出する暗黒天体。

あまりにも巨大な力の波動。

それが意味している事は一つ。

――絶対存在。
超巨大というにも生易しい。

桁違いの神性。
桁違いの質量。
桁違いの規模。

目だけで月と見紛うばかりの規模感は力の桁が違いすぎるのは
明らかだった。

「「うぅっ!」」
「「あっ……あっ……あっ……」」

風守の守護者達は恐怖のあまり声もでない。

あまねく民を絶望に叩き落す負の星だった。

国喰い。
三千世界を滅ぼす魔神皇。

極大の魔がいた。
魔がくる。魔がくる。魔がくる。

絶望が――くる。