36話

悠久ノ風 第36話

36話 


「クリス……トフ!!」

草薙悠弥がシンの国敵の名を叫ぶ。

光が形を成す。
光の貌。神の威光を有した人の形をしたモノ――クリストフ。

「ッツア!?……」

草薙は心臓が止まる錯覚を覚えた。
事実止まっていたのかもしれない。

信じない認めないこの存在を決して許す事ができない。
それが神の否定に繋がるとしても。

「――光あれ」

神の言葉と共に空間が歪む。
彼がその気になれば世界を広める事も可能だろう。
彼は神。

「光で焼き尽くすために」

光の絶対者。

神理が違う。
覇気が違う。
オーラが違う。

何者をも圧倒する覇気が全てを震撼させた。

「――時が動く」

絶対者が宣言する。

「運命がくる」

日本に迫る運命を。

「破滅がくる」

日本に迫る破滅を。

「――あの戦争のように」

光の言葉は草薙の心を抉る。

(――)

草薙の心が白く塗りつぶされた。

(その言葉の先を――)
言わせてはならない。
聞いてはならない。

「日本人は死ぬ」

膨れあがる殺意。
弾ける衝動。
滅びの神撃が草薙の手から迸った。

――ア゛ア゛アアアァァァァ――

野獣のような咆哮が光の声をかき消す。

「クリストフーーーーー!!」

瞬間、臨界に達する。
理性が焼き切れる。
光へ討滅の神理を紡ぐ。

「おおおぉぉぉ!!」
草薙が獅子吼をあげる。

「国敵――」
風が集束し、神理が現出する。

「討滅」
――神を撃ち滅ぼすために。

■■の風が――放たれた。

――ゼザアアアアアアアアア!!

撃ち放たれる風の神理。
風の色は漆黒。
闇より深き黒。
草薙が光に向けて漆黒を撃ち放つ。

「――光あれ」

光が神言を紡ぐ。
瞬間、光が顕現した。

光の絶対領域。
神理の風。

草薙悠弥の風。
クリストフ・トゥルーの光。

世界が穿たれる。

凄絶なせめぎあいが全てを圧倒した。

超絶の力の衝突が世界を震撼させる。

神理の波動が爆発散華。
超弩級の力のぶつかり合い

空間を圧倒する神理波動。
そして――

「っ!?」

消失する。

数々の強敵を倒した風の神理が。
圧倒的な力が。

それをもってしても……

(届かない!?)

神の絶対が証明される。

瞬間、草薙の視界が塗りつぶされる。
白白白白。
光が全てを塗りつぶす。
そして――

「――戦争が始まる」

光は言葉を紡ぐ。

「神はこの日本を滅ぼすだろう。
神がこの国の男を殺す。
神がこの国の女を殺す。
神がこの国の子供を殺す。
神がこの国の老人を殺す。
全て殺す、残らず殺す」

クリストフの箴言が響きわたる。
――日本人は死ぬ。

「ッ……」

その言葉には圧倒的な現実感があった。

「何人殺した……貴様は!
その光で何万の日本人をやいた!!」

目の前の男、クリストフ・トゥルーは神理の一撃で◆◆◆万の日本人を殺したのだ。

「日本人を!」

怒りが草薙悠弥の総身を蝕む。

「君は戦ってきた」

君は守り戦った。
傷ついても戦った
裏切られても戦った。
だが――

「全ては終わる――」

絶対者が断罪する。

「君が守ってきた人間は死ぬ」

「――」

草薙悠弥の心が焼き切れた。

こいつを殺す、こいつを滅ぼす
滅ぼす滅ぼす滅ぼす滅ぼす。

草薙悠弥の嵐のような感情が荒れ狂い止まらない。

だがそんな草薙を見下ろすように光は宣言した。

「この国は――死ぬ」

「――!!」

「世界に光あれ。真暦は終焉する」

それは圧倒的な絶望だった。
日本は滅び、日本人は死に絶える。
その宣言を前に。

「国敵討滅」
風が吹く。
草薙悠弥が理を口にする。

国敵討滅。
それは心理である。
それは真理である。
それは神理である。

故に国敵討滅。神が相手だろうが、日本の敵となれば討ち滅ぼす。

虚神は日本を殺す敵を滅ぼすと、草薙は宣言した。
そして―

「蒼生守護」
故に蒼生守護。
日本人を守るというその理。

「俺は……守る」

終焉の運命と対峙する。

「日本は……俺が守る!!」

真を吠える。
草薙悠弥の一つの真を国敵に向かって叩きつけた。

風が吹いた。

圧倒的絶望を前にして尚、諦めない。

「神、か」

光は微笑んだ。

「大切な者を失っても滅ぼすために戦う。
裏切られても、守るために戦う」

クリストフの懐かしきものを見るような、尊く遠い何かをみるような輝きがあった。

「それは正に――」

クリストフが光を放つ。

――リュシオンが来る
――ガルディゲンが来る

日本が滅びる。
日本に悠久の終焉がもたらされる。

故に光は宣言した。

「戦え虚神」

十三帝将、十三位。
久世零生、虚神。

終焉に抗え
永遠に抗え
神と戦え。
魔と戦え。

さぁ戦え。
敵がくるぞ。
お前から全てを奪った敵が。
日本国の全てを滅ぼす敵が。

「示せ虚神――君の神理を」

――神ノ風を。