28話 風の暗闇、命の癒し
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「ここか……」
草薙は風の洞窟の奥についた。
結界を強化した時に激しく消耗していた。
そして魔物との戦い。
体の痛みが激しい。
だが草薙は歩みを止めなかった。
淡く光る理粒子の蒼光が地を照らす。
理力光の輝きが強まっている。
風の洞窟の湧水に理光が映り込む。
明らかに理力の流れを意図的に集約されている
特殊な場であり、この草薙にとって風の洞窟におけるゴールだった。
風の洞窟の最奥で、草薙は手を掲げた。
「――風の転移」
詠唱する。
「明証――」
詠唱と共に空間に扉の様な輪郭があらわれる。
扉には光があった。
その先には位相の違った光景が映り込む。
その時――
「――悠弥様」
透き通る少女の声がした。
「……」
草薙はこの声を知っている。
彼女の声だ。
光が降りてきた。蒼の光。
水を溶かした様な優しい光が草薙を包んだ。。
「――命癒」
癒しの詠唱が紡がれる。
それは回復理法。
光が草薙を包んだ。
傷や疲労が癒えていく。
(…………)
優しい光が草薙の体を包んだ。
「悠弥様……」
光から優しき光の紡ぎ手があらわれる。
黒髪の柔らかい雰囲気の少女。
蒼の洞窟の湖に映る幻想的な光景だった。
「……<命>か」
目の前にあらわれた少女。
それは草薙がよく知っている少女だった
「……ありがとう」
そっけないながらも、真摯な礼だった。
「いえ……少しでもお役に立てれば……嬉しく……思います」
草薙の言葉に<命>は深く頭を下げた。
草薙は思う。
実際、これから先の事を考えると<命>の治癒はありがたかった。
(だからこれは感謝……純粋な感謝だ)
草薙は自身にそういい聞かせた。
「本当に……いかれるのですか」
<命>は草薙を見た。
草薙悠弥の決意を彼女は知っている。
「悠弥様のやろうとしている事は……悠弥様にとって辛すぎる選択です……」
「この風守は……虚神を信仰している地です……あの戦いの後でもなお……
この地は虚神を奉じています……」
「その地を……悠弥様は……日本を守るために……」
<命>の言葉は途切れ途切れだった。
「切り捨ててきた……たくさんのものをな」
草薙の言葉が静かに響く、そして――
「それはお前がよく知っているだろう……<命>」
草薙が<命>に放った言葉に、彼女は
「…………」
草薙の問いに彼女は答えない。
「悠弥様の決断は……あまりにもあなた自身が苦しいものではないのですか……」
少女は草薙を見て、悲痛な表情を浮かべた。
その悲痛さはまるで、草薙の本心を表しているかのようだった。
だが――
「――国敵討滅」
草薙は誓いの言葉を口にする。
「悠弥様……」
<命>はわかっていた。
草薙の悪へのに容赦のない攻撃。。
それは草薙悠弥自身にも向けられていた。
故に迷いはない。自身の悪性も理解している故に。
「俺は正しい奴でもいい奴でもない。
俺は俺がやりたいからやるだけだ」
ならばそれもまた良し。その信念を貫くのみ。
「私は……悠弥様に……」
<命>は消え入りそうな声を紡いだ。
「俺は……征く」
草薙を少女の横を通り過ぎる。
<命>は震える体を押さえ、只一言、言葉を紡いだ。
「――あなたに……希望の風がありますように」
少女の祈りが響いた。